エジプトのヘレナ[全2幕]R.シュトラウス作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

R. Strauss, Die Ägyptische Helena 1926~27

エジプトのヘレナ[全2幕]R.シュトラウス作曲

 

登場人物❖

ヘレナ(S) メネラス(T) ヘルミオーネ(S) アイトラ(S) アルタイル(Br) ダ・ウド(T) 全知の貝殻(A) 他

概説

 詩人ホフマンスタールと意気投合して書きあげたシュトラウス中期の名作のひとつである。同時期の作品に比べると、上演される機会はさほど多いとは言えないが、初演は大成功を収め、ドイツでは人気のあるオペラのひとつになっている。シュトラウスらしい濃密な響きによる華麗で美しい音楽である。

 

第一幕

 

 トロイ戦争直後、ポセイドンの愛人であるアイトラが住む島の宮殿。恋人ポセイドンの帰国を待ち焦がれるアイトラは、宝物として部屋に置いてある全知の貝殻に、彼がどこにいるのかを尋ねる。貝殻は、彼はエチオピアにいると答えるので、そんな遠くからすぐには帰って来ないとわかってがっかりする。侍女たちが彼女に心の悲しみを忘れる魔法の酒を勧めるが、アイトラは断る。

 その時貝殻が、近くを航行する船の上で夫が妻を殺そうとしていると言い出す。それがスパルタ国王で夫のメネラスとその妻ヘレナであることがわかり、魔術師であるアイトラは魔法で嵐を呼び起こし、船を難破させて殺人を止めさせる。ヘレナとメネラスは海岸に打ち上げられ、食卓が用意されているアイトラの不思議な宮殿にたどり着く。ヘレナはトロイ戦争中の過去の不貞を夫が赦してくれて、メネラスの変わらぬ愛を獲得することを望んでいる。メネラスは心の底ではヘレナを愛しているものの、なかなか彼女を赦そうとはしない。

 そのような事情を知らないアイトラには、メネラスがただの残酷な夫としか映らない。メネラスはヘレナを殺そうとし、彼女の哀願に耳を貸さずに仇敵パリスを殺した剣を彼女に振り下ろそうとする。陰でそれを見ていたアイトラは、ヘレナに同情して妖精たちを呼ぶ。妖精たちはあたかも再び戦争が始まったかのような幻覚をメネラスに抱かせ、彼はパリスの幻影を追って外に駆け出して行く。一人残ったヘレナの前にアイトラが現れて、魔法の霊酒を飲ませて過去を忘れさせると、ヘレナは薬が利いて若返ったような気になり静かに眠り込む。

 パリスとヘレナの幻影を追ったメネラスは、二人を殺したと思い込んで戻って来る。ところがヘレナがここで安らかに寝ていると聞かされ、メネラスの頭は混乱する。そこでアイトラは、メネラスにも霊酒を飲ませて意識を朦朧とさせると、作り話をして彼が戦争中に追っていたヘレナは幻想のヘレナで、今ここに寝ているのが本当のヘレナだと説明する。メネラスは目覚めたヘレナとの再会を喜ぶ。メネラスは故国スパルタに帰りたいと言うが、ヘレナは世間の目が届かない別の世界に行きたいと言う。そこでアイトラは二人に霊酒を飲ませ、ヘレナに霊酒を持たせると、彼らが寝ている間に魔法のマントでアトラス山麓のオアシスに運んであげると約束する。

第二幕

 

 一夜明けた朝のアトラス山麓。まずヘレナが目覚めて第二の新婚初夜の喜びをたたえる。しかし続いて起きてきたメネラスは意識朦朧としていて、ヘレナは昨日アイトラの島で殺したはずであり、ここにいる妻は自分を慰めるために魔法によって作られた幻影ではないかと疑っている。彼は妻が出す霊酒も断るが、そこに遊牧民の長アルタイルが息子のダ・ウドを伴って現れる。アルタイルはアイトラの命によってヘレナに忠誠を誓うためにやって来たと言ってひざまずき、数々の高価な贈り物を捧げる。アルタイルはひと目見てヘレナに惚れ込む。メネラスはダ・ウドが殺したはずの仇敵パリスに瓜二つなのに怒るが、アルタイルから贈られた武具をつけるためにテントに入る。その間にダ・ウドもヘレナに熱烈な求婚をする。

 アルタイルから狩りに誘われたメネラスは、ヘレナが止めるのも聞かずに出て行く。ヘレナは例の霊酒の効果が利かなかったと嘆いていると、アイトラが忽然と現れ、実は侍女が薬の調合を間違えてうっかり記憶回復の薬を入れてしまったのだと説明する。それを聞いたヘレナは、忘却だけが幸せをもたらすものではないことを悟り、アイトラの反対を押し切って、侍女にもっと記憶を鮮明にする霊酒を調合してもらう。

 やがてアルタイルが戻って来て、ヘレナのためにエキゾティックな宴を催して居丈高(いたけだか)に彼女に言い寄るが、彼女はそれを拒絶する。一方メネラスは、パリスの姿と二重写しになったダ・ウドを狩りで殺してしまい、ダ・ウドの死体が運び込まれる。メネラスが悄然として入って来るので、ヘレナは今調合してもらったばかりの霊酒を彼に勧める。メネラスは毒が入っているのかと思うが、ヘレナが飲むのを見て、死によって本当の妻に会えると信じて霊酒を飲む。記憶が蘇り、はじめは復讐心で妻を殺そうと思っていたメネラスの心もやわらいで、二人は愛を取り戻す。

 情欲に駆られたアルタイルがヘレナを連れ出そうとするがアイトラが現れ、ポセイドンの武装した戦士たちがやって来てアルタイルを追い払う。アイトラは、ヘレナとメネラスの間に生まれた一人娘ヘルミオーネを連れて来るので、二人は和解してスパルタへ帰国の途につく。

Reference Materials



初演
1928
年6月6日 ドレスデン国立歌劇場

原作
エウリピデス/「ヘレナ」

台本
フーゴー・フォン・ホフマンスタール/ドイツ語

演奏時間
第1幕67分、第2幕 70分(カイルベルト盤CDによる)

参考CD
● リザネク、クッパー、アルデンホフ、ウーデ/カイルベルト指揮/バイエルン国立歌劇場管・唱(Orf

● ジョーンズ、カストゥ、ホワイト、ヘンドリクス/ドラティ指揮/デトロイト響、ケネス・ジュウェル唱(D

● ジョーンズ、グルベローヴァ、トーマス、ケルツェ/クリップス指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(RCA

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



 


◀︎◀︎◀︎ 影のない女
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