影のない女[全3幕]R.シュトラウス作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

R. Strauss, Die Frau ohne Schatten 1914~17

影のない女[全3幕]R.シュトラウス作曲

 

登場人物❖

皇帝(T) 皇后(S) 乳母(霊界の女)(Ms) 鷹の声(S) バラク(Br) バラクの妻(S) 霊界の使者(Br) 神殿の門番(S) 若い男の幽霊(T) 天上からの声(A)他

概説

 シュトラウスとホフマンスタールの共同制作になるオペラのひとつで、お伽(とぎ)の世界と人間の世界という二つの世界の対比は、モーツァルトの「魔笛」の二十世紀版を思わせる。大編成のオーケストラを駆使しながらもその透明な音が素晴らしい。初演は大成功だったが、この曲が本格的に世界各地で上演されるようになったのは、第二次大戦後である。

 

第一幕

 

 第一場 皇帝の庭園のテラス。暗がりの中で乳母(霊界の女)が皇后を守っていると、霊界の使者が現れる。乳母は使者に、皇后にはまだ影はないと報告する。使者はあと三日で一年だと念を押して去る。実は霊界の大王カイコバートの娘は白いカモシカ姿で遊んでいる時に皇帝に捕らえられ、今では皇后になっている。人間でない彼女には影がないので子供は産めないが、もし一年以内に子供ができない場合、皇帝は石になる定めで、そのためカイコバートは毎月密かに地上に使者を送って、娘に影のないのを確かめさせているのである。

 皇帝は、逃げた鷹を探しに三日間狩りに出かけると言う。一人になった皇后が皇帝と出会った時のことをしみじみ思い出していると鷹が飛んで来て、影を持たないと皇帝が石になると歌う(「皇后は影を持たない。皇帝は石になる」)。驚いた皇后は乳母に影を求める方法を尋ねて、何とかして影を得ようと渋る乳母を説得して二人で人間の社会へ降りて行く。

 第二場 染物師の家。みすぼらしい家の中で、体の不自由な三人の兄弟が争っている。染物師バラクは妻ともめ、妻は子供なんか産まないと言う。バラクが出かけた後、貧しい身なりをした皇后と乳母が現れる。乳母は魔法で美しい庭園や宝石などを見せて、影を売って欲しいと言う。

 妻は乳母と皇后が三日間女中として仕えるのと引き換えに、影を売ることに同意する。乳母は魔法で五匹の魚を料理し、バラク夫妻のベッドを二つに引き裂く。鍋の中の魚は産まれなかった子供の嘆きを歌う。バラクが帰って来るが、深く問いかけもせずに別々になったベッドに入る。


第二幕

 

 第一場 染物師の家。朝バラクが出かけた後、乳母は魔法で若い男の幽霊を出現させ、妻の心を夫から離れさせようとする。バラクが妻のためにごちそうを持って帰って来るが、妻が食べないので、体の不自由な兄弟や乞食(こじき)たちに与えてしまう。

 第二場 皇帝の鷹狩り小屋の前。月夜、皇帝は再び見つかった鷹に満足するが(「再び見つかった鷹よ」)、待っているはずの皇后がいないのを不審に思う。

 そこに皇后と乳母が空を飛んで帰って来るが、人間の臭いがするので彼女らが嘘をついているのを知る。皇帝は皇后を殺そうと考えるが、愛している皇后を殺すのは忍びなく、鷹に導かれて一人無人の岩屋へ向かう。

 第三場 染物師の家。乳母は眠り薬でバラクを眠らせてしまうと、またも若い男を呼び寄せてバラクの妻を誘惑させる。心が若い男に傾いた時、我に返った妻は夫を叩き起こして寝ぼけまなこの夫を罵る。そして乳母とともに出て行く。

 第四場 鷹狩り小屋の皇后の寝室。皇后は夢の中で、バラクを不幸な運命に陥れていることに良心の呵責(かしゃく)を感じる。また皇帝が岩屋に入って行く不幸な夢を見て、いっそのこと自分が石になれば良いと叫ぶ。

 第五場 染物師の家。いよいよ三日目も終わりに近づき、昼間なのに空が曇り、雷鳴が轟(とどろ)く。バラクの妻は夫に自分の不貞を告白し、もう子供も産まないから影を売ってしまったと言う。驚いたバラクが灯りをともすと、妻の影がない。乳母は皇后に今のうちにと促すが、皇后は影を欲しくないと言う。怒ったバラクが乳母が魔法で出現させた剣で妻を刺そうとした時、妻は夫への愛を感じて嘘を告白してざんげする。その瞬間、地面が割れてバラクと妻は地下に呑み込まれる。

 

第三幕

 

 第一場 地下の世界。厚い壁で仕切られてバラクと妻が座っている。妻は後悔し、バラクも妻を愛していると離れ離れの二重唱を歌う(「私に委ねられ」)。すると天上から声が聞こえ、二人はそれぞれ階段を登って行く。

 第二場 霊界の入口の渓流。皇后と乳母を乗せた小舟が着く。カイコバートの命令に背いた乳母は皇后に逃げようと言うが、皇后は父に皇帝の助命を求めて神殿の中に入って行く。そこに地下からバラクと妻が別々に上がって来るので、人間を呪う乳母は二人の仲を裂こうとするが、現れたカイコバートの使者は乳母を小舟の中に投げ入れ、霊界から追い出してしまう。

 第三場 霊界の神殿の中。皇后は、バラクと妻の愛の前にとうとう影を奪うことができなかったとカイバコートに訴え、人間の世界に住みたいと言う。すると黄金の泉が湧き出す。神殿の門番は、これを飲めば皇后は影が得られ、バラクの妻は影を失うと教える。石になった皇帝が見えるが、皇后は泉の水を飲もうとしない。その時皇后の影が泉水に映り、皇帝は石から元の姿に戻る。二人はしっかりと抱き合う。

 第四場 滝のある霊界の美しい風景。バラクも妻と巡り合って互いに愛の言葉を交わす。妻の影が川面に映ると、黄金の橋が現れる。二人は橋の上で手を取り合い、滝の上に立つ皇帝と皇后との四重唱となる。産まれなかった子供たちの声が聞こえてくる。

Reference Materials



初演
1919
1010日 ウィーン国立歌劇場

原作
「千一夜物語」、フーゴー・フォン・ホフマンスタール/「皇帝と悪魔」などから自由に構成

台本
フーゴー・フォン・ホフマンスタール/ドイツ語

演奏時間
第1幕63分、第2幕63分、第3幕65分(サヴァリッシュ盤CDによる)

参考CD
● リザネク、トーマス、ホフマン、ポップ、ベリー、ルートヴィヒ/カラヤン指揮/ウィーン国立歌劇場管・唱(DG

● ヴォイト、ヘップナー、シュヴァルツ、グルントヘーバー、ハス/シノーポリ指揮/ドレスデン国立歌劇場管・唱(T

● ステューダー、カウフマン、ヴィンツィンク、シュヴァルツ、コロ、シュミット/サヴァリッシュ指揮/バイエルン国立歌劇場管・唱(EMI

参考DVD
● デヴォル、ザイフェルト、リポヴシェク、タイタス/サヴァリッシュ指揮/バイエルン国立歌劇場管・唱(DEN

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  

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