❖概説❖

「サロメ」で試みた不協和音をより大胆に採り入れ、刺激的なまでの強烈な迫力に貫かれた異常な作品。

　初演は一般聴衆には受け入れられなかったが、ミュンヘン、フランクフルト、ベルリンと次々に上演され、その年の3月24日ウィーンでの上演は圧倒的な成功を収めた。

　古代ギリシャ・ミケーネの王宮の中庭。五人の下女たちが水を汲みながら、エレクトラの異常な行動について話し合っている。エレクトラはミケーネの王アガメムノンと王妃クリテムネストラとの間の娘であるが、アガメムノンの出征中にクリテムネストラはエギストと情を結び、共謀して帰国した夫を暗殺してしまった。

　エレクトラは弟オレストを逃がし、自分は犬同様に扱われながらも王宮に留まって、弟の成長を待って父の仇（かたき）を討つ機会を狙っている。第五の下女だけはエレクトラに同情しているが、監視の女に促されて下女たちは家の中に入る。

　エレクトラが現れて、長いモノローグを歌う（「一人だ、何と悲しいこと、一人だ」）。彼女はどんなに父アガメムノンを慕っていたかを語り、母とエギストへの復讐（ふくしゅう）を誓って、復讐が成就したら喜びの踊りを踊りたいと激しく願う。そこに妹のクリソテミスが現れ、母とエギストが自分たち姉妹を暗い塔に幽閉しようとしているから、復讐をあきらめるように話す。クリソテミスは復讐よりも女の幸せを求めようとしているのだが、エレクトラは妹の話に耳を貸そうとしない。

　王宮の中から、お供の者を従えたクリテムネストラが出て来る。王妃は毎夜悪夢に悩まされて顔色も悪く、やつれ果てている。王妃はエレクトラが悪夢を祓（はら）う秘法を知っていると思い、その秘法を聞き出そうとする。しかしエレクトラは、悩みごとから解放されるには犠牲が必要だと言う。王妃がなおも問い詰めると、エレクトラは、犠牲になるのはあなた自身で、それをなし遂げるのはオレストだと叫ぶので、王妃は恐怖におののく。その時侍女が出て来て、クリテムネストラに何かささやくと、王妃は意地の悪い笑みを浮かべながら王宮に戻って行く。

　そこにクリソテミスが駆け込んで来て、オレストが死んだという知らせが届いたことを告げる。エレクトラは妹に、弟が死んでしまったのでは復讐は自分たちで果たさなければならないと言うが、クリソテミスは尻込みして立ち去る。

　エレクトラは自分一人で復讐を遂げる決心をして、戸口の傍に埋めておいた手斧（ておの）を取り出そうと地面を堀り始める。そこにオレストの死を伝えに来たという男が現れる。彼はすぐに彼女がエレクトラだとわかるが、実はオレストは生きているという男の言葉から、エレクトラはようやくこの男がオレスト自身であるのに気づく。

　狂喜するエレクトラの前にオレストの養育者の老人が現れ、今王宮の中に男は一人もいないとオレストに言う。王宮の侍女の招く合図に、老人はオレストを伴って王宮の中に入って行く。エレクトラはオレストに手斧を渡し損なったのを悔しがる。

　しばらくすると、王宮の中からクリテムネストラの断末魔（だんまつま）の悲鳴が聞こえて来る。驚いてエレクトラは戸口に駆け寄る。下女たちも何ごとかと庭に出て来るが、間もなく皆部屋に戻る。そこにエギストが帰って来て明かりを求めると、エレクトラが嬉しそうに松明（たいまつ）を持って進み出る。不審な気持ちを抱きながらもエギストは王宮に入る。

　やがて小さな窓から助けを求めるエギストの顔が見えるが、苦悶の声とともに消える。人々も皆エギスト一派を打ち倒す。クリソテミスが現れて、死んだはずのオレストが家の中にいるとエレクトラに知らせる。

　復讐をなし遂げたのを見届けたエレクトラは、喜びに激しい踊りを踊り出し（「黙って踊りなさい！皆ここへ」）、恍惚（こうこつ）の中に倒れて動かなくなる。クリソテミスが王宮の中に向かってオレストの名前を呼ぶうちに幕は下りる。

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