詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ドイツオペラ
R. Strauss, Der Rosenkavalier 1909~10
ばらの騎士[全3幕]R.シュトラウス作曲
❖登場人物❖
元帥夫人マリー・テレーズ(S) レルヘナウのオックス男爵(B) オクタヴィアン・ロフラーノ伯爵(Ms) ファニナル(Br) ゾフィー(S) マリアンネ・ライトメッツェリン(S) ヴァルツァッキ(T) アンニーナ(A) テノール歌手(T)他
❖概説❖
「エレクトラ」作曲中にシュトラウスは“次にモーツァルトのようなオペラを書いてみたい”と言ったが、前作とは対極にある耳に快い美しくも華麗なオペラを作り上げた。
舞台は18世紀中葉のウィーンの貴族社会で、ワルツがふんだんに採り入れられている。初演は大成功で、ドイツ各地からドレスデンに聴衆が集まった。
第一幕
ヴェルデンベルク公爵邸の元帥夫人の部屋。元帥夫人マリー・テレーズは夫が狩りに行って留守の間に、若い恋人オクタヴィアン伯爵を自分の寝室に引き入れ一夜を過ごした。朝目が覚めると、人の来る気配にオクタヴィアンは奥に隠れる。黒人の小姓が朝食用のチョコレートを運んで来たのだった。
二人でチョコレートを飲もうとすると再び物音がするので、オクタヴィアンは急いでマリアンデルと名乗る小間使いに女装する。入って来たのは元帥夫人のいとこのオックス男爵で、彼はさっそく可愛いらしい小間使いに目をつける。
男爵は近々新興貴族ファニナルの娘ゾフィーと結婚することが決まったので、婚約の印の銀のばらを届ける使者の人選を相談に来たのであった。元帥夫人はオクタヴィアンを使者として推薦して、その肖像メダルを男爵に見せるが、その肖像があまりにも目の前にいる小間使いによく似ているので男爵はびっくりする。
男爵がしつこく小間使いを口説いている間に元帥夫人の身支度ができ、控えの間で待っていた人々が呼び入れられる。公証人、情報屋、物売り、貴族の孤児など、それぞれ売り込みや陳情などが行われ、テノール歌手がイタリア風の美しい歌を披露する(「固く武装せる胸もて」)。
人々が去り、男爵も銀のばらを元帥夫人に渡して帰る。元帥夫人は一人物思いに沈み(元帥夫人のモノローグ「ようやくみこしを上げて行った」)、伯爵姿に戻って現れたオクタヴィアンにも素っ気なく帰るように言う。
銀のばらを渡すのを忘れていたことに気づいた元帥夫人は、黒人の小姓にオクタヴィアンのもとに銀のばらを届けるよう命じる。
第二幕
ファニナル邸の大広間。今日はばらの騎士がやって来る日で、しきたりに従って父親のファニナルが席を外すと、正装したオクタヴィアンが銀のばらを持って到着し、ゾフィーに手渡す。この時二人は心がときめき(「地上のものとは思われぬ天上のばら」)、親しみを感じる。
ファニナルに伴われたオックス男爵が入って来るが、男爵の下品で慣れ慣れしい態度をゾフィーは嫌悪する(「私と一緒ならばどんな夜も長過ぎることはない」)。男爵がファニナルと別室に行っている間に、ゾフィーとオクタヴィアンがすっかり恋人気取りになっているのを(「目に涙をたたえ」)、男爵の家来のヴァルツァッキとアンニーナに見つかってしまう。
人々が呼ばれて、男爵とオクタヴィアンは決闘になるが、男爵はすぐ腕に傷を負って大騒ぎする。ゾフィーは男爵とは結婚しないと言い出す。一方の男爵はワインを飲んで元気になり、一休みしている。そこにアンニーナが明晩の逢い引きに誘うマリアンデルからの手紙を持って来るので、上機嫌になった男爵はワルツを口ずさむ。
第三幕
ウィーン郊外の居酒屋の特別室。金払いの悪い男爵を見限ってオクタヴィアン側に寝返ったヴァルツァッキとアンニーナは、特別の仕掛けをいろいろ作って男爵を驚かす準備をしている。男爵はマリアンデルの手を取って入って来ると、さっそく口説いてキスしようとするが、あまりにもオクタヴィアンに似ているので気になる。
その時、異様な顔があちこちから一斉にのぞくのでびっくりする。そして喪服の女性が連れた大勢の子供たちが男爵をパパ、パパと呼んでまとわりつくので、男爵は警官を呼ぶが、辻褄(つじつま)の合わない訴えにかえって怪しまれる。
そこにファニナルとゾフィーがやって来て、男爵の不品行に愛想を尽かして絶縁を告げる。マリアンデルから伯爵の姿に戻ったオクタヴィアンを見て男爵は真相を知るが、現れた元帥夫人は男爵に、すべてあきらめて立ち去るよう諭す。
元帥夫人はオクタヴィアンから身を引く決意をし、彼をゾフィーと結び合わせることにする(「私が誓ったことは、彼を正しいやり方で愛することでした」)。二人は固く抱き合って熱い接吻を交わすと(「まるで夢のよう」)、手に手を取って立ち去る。その時ゾフィーが落としたハンカチを、黒人の小姓が拾い上げて走り去る。
Reference Materials
初演
1911年1月26日 ドレスデン宮廷歌劇場
台本
フーゴー・フォン・ホフマンスタール/ドイツ語
演奏時間
第1幕70分、第2幕60分、第3幕62分(カラヤン盤CDによる)
参考CD
● シュヴァルツコップ、シュティヒ=ランダル、ルートヴィヒ、エーデルマン/カラヤン指揮/フィルハーモニア管・唱(EMI)
● ライニング、ギューデン、ユリナッチ、ウェーバー/E.クライバー指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D)
参考DVD
● ジョーンズ、ポップ、ファスベンダー、ユングヴィルト/クライバー指揮/バイエルン国立歌劇場管・唱(DG)
●トモワ=シントウ、ペリー、バルツァ、モル/カラヤン指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場管・唱(SONY)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止
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