ジプシー男爵[全3幕]J.シュトラウス作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

J. StraussII Der Zigeunerbaron 1883~84

ジプシー男爵[全3幕]


登場人物❖

ペーター・ホモナイ伯爵(Br) カルネロ伯爵(Br) シャンドール・バリンカイ(T) カールマーン・ジュパン(Br) アルゼーナ(S) ミラベラ(Ms) オットカール(T) ツィプラ(A) ザッフィ(S)他

概説

「こうもり」がわずか四十二日で一気に作曲されたのに対し、この曲は二年もかけて入念に作曲された。ハンガリー風の哀愁にあふれたエキゾチックな情緒に特徴がある。

第一幕

 

 ハンガリー・バナート地方テメシュヴェールの川沿いの田園地帯。水夫たちの合唱が聞こえる。金持ちの豚飼いジュパンの命令で、オットカールは毎日のようにこのあたりを掘り返している。というのも、二十年ほど前にオーストリア軍に追われたトルコの総督が逃げる際、このあたりに財宝を隠して行ったという噂があるからである。

 ジプシー女ツィプラが通りかかり、オットカールをからかっていると、舟が着いて地主バリンカイが政府特使のカルネロ伯爵を連れて現れる。バリンカイは亡命した父の土地を正式に相続するためにやって来たと言い、やる気になれば何でもできると言ってその数奇な生い立ちや運命を語る(「気楽な若者だった私は」)。

 二人が相続手続きの証人を探していると、ツィプラに出会う。彼女はバリンカイは愛する人を得て財宝を手に入れ、カルネロは昔失った宝が棒のようになって戻って来ると占う。その時ジュパンが現れてもう一人の証人になるが(「字を書くことは苦手中の苦手」)、彼はバリンカイが土地を相続するのなら、娘のアルゼーナと結婚させようとして、娘を呼びに行かせる。そこにジュパン家の家庭教師ミラベラが出て来て、カルネロを見て昔生き別れた夫であると認める。二人の間の息子オットカールが細い棒のように成長しているので、ツィプラの占いが当たったことがわかる。

 やがてアルゼーナが現れる。バリンカイは彼女の美しさに惹かれるが、彼女はオットカールと愛し合っているので、自分の夫になる人は男爵以上の貴族でなくては駄目だとバリンカイを相手にしない。皆が引き上げた後、夕闇の中でジプシー娘ザッフィが歌う寂しげな歌が聞こえる(ジプシーの歌「ジプシーほど悲惨で誠実な者はいない」)。バリンカイは、この歌は昔母がよく歌ってくれた歌だと思い出す。

 夜になると、オットカールとアルゼーナが忍んで来て熱烈な愛を交わし、昼間の件はお笑いだとささやくので、陰で聞いていたバリンカイは立腹する。やがて戻って来たジプシーたちに、バリンカイは彼らの主人として歓迎され、忠誠の誓いを受ける。そこでバリンカイはジュパンとアルゼーナを呼び出すと、自分はジプシーの男爵になったと告げる。アルゼーナは相手がジプシーでは嫌だと言うので、バリンカイは突然ザッフィを妻にすると宣言する。カルネロはジプシー娘なんてとんでもないと止めるが、反対にジュパンたちはジプシーを侮辱したと怒り出してひと騒動となる。


第二幕

 

 廃墟に近いジプシー部落。ジプシー部落でザッフィとともに一夜を明かしたバリンカイは、改めて彼女に対する愛を歌うが、彼女はまだ昨夜のバリンカイの求婚を本気に思っていない。するとツィプラは、昨夜夢の中でバリンカイにそっくりな老人が現れて、宝の在りかを教えてくれたと言う。

 バリンカイは半信半疑でそこの石を叩いて開けてみると、財宝の山が出てくる。ザッフィとツィプラとバリンカイの三人は、宝の山を前にして歌う(宝石のワルツ「ごらん、この輝きを」)。ジプシーたちが起きて鍛冶の床を叩き始める頃、ジプシー男爵姿のバリンカイと花嫁姿のザッフィが現れる。そこにジュパンやオットカールたちがやって来て、バリンカイの見つけた宝を悔しがる。カルネロもやって来て、相続保証人の自分が認めない結婚だと非難するが、バリンカイとザッフィはこうのとりとうそ鳥に託して彼をからかう。

 ラッパの音が聞こえ、テメシュヴァールの知事ホモナイ伯爵が兵隊を引き連れて現れ、スペイン戦争のための徴兵を布令する(徴兵の歌「さあ、手を差しのべて」)。ふるまわれたワインを飲むと応募した印になるのだが、ジュパンとオットカールはつい好きなワインを飲んでしまい、皆に見送られて出兵する。

 一方カルネロは、再びバリンカイとザッフィの関係を非難し、知事に二人の結婚を認めないよう訴え出る。そこで怒ったツィプラは、長い間大切に保管していた書類を知事に提出すると、ザッフィはジプシー娘ではなくて、昔この土地を治めていたトルコ総督の娘であることが判明する。身分の違いに絶望したバリンカイは徴兵のワインを飲んで出征を決意し、悲しむザッフィと一同に見送られて戦地へ向かう。


第三幕

 

 ウィーンのケルントナー門前の広場。前幕より二年後、人々が集まってスペイン軍を打ち破ったオーストリア軍をたたえている。まずジュパンを先頭に第一陣が凱旋して来る。ジュパンは自分の武勇伝をいかにも得意げに大げさに語って聞かせる。次いで入場行進曲に乗って、バリンカイを先頭に本隊が帰って来る(「万歳、われらは戦った」)。

 知事は、オーストリア軍を勝利に導いた功労者バリンカイを英雄としてたたえ、かつて政府によって没収された財産をすべて彼に返還し、皇帝より男爵の称号を授けられて貴族に列せられたと伝える。ジュパンはバリンカイが本当の男爵になったのなら、アルゼーナは彼の花嫁になるものと思っているが、アルゼーナは困惑している。

 しかしバリンカイは彼女の髪にオットカールの肖像が入った花かんざしが差してあるのを指さし、オットカールを招く。そしてアルゼーナをオットカールに寄り添わせるので、ジュパンも何たることだと言いつつも二人の仲を認める。そこにザッフィがジプシーの歌を歌いながら進み出て、バリンカイとしっかりと抱き合う。バリンカイが第一幕の幕開きの「やる気になれば何でもできる」を歌うと、一同歓喜の大合唱となる。

Reference Materials



初演
1885
1024日 アン・デア・ウィーン劇場

原作
マウルス・ヨカイ(ヨカイ・モール)/「ザッフィ」

台本
イグナーツ・シュニッツァー/ドイツ語

演奏時間
第1幕75分、第2幕54分、第3幕21分(下記CDによる)

参考CD
●エルツェ、コバーン、ハマリ、ホルツマイアー、フォン・マグヌス、リッペルト/アーノンクール指揮/ウィーン響、アルノルト・シェーンベルク唱(T

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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