トリスタンとイゾルデ[全3幕]ワーグナー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

R. Wagner, Tristan und Isolde 1857~59

トリスタンとイゾルデ[全3幕]ワーグナー作曲


登場人物

イゾルデ(S) トリスタン(T) ブランゲーネ(Ms) マルケ王(B) クルヴェナール(Br) メロート(T)他

概説

 男女の愛と心の陶酔の極致を描いた名作で、ワーグナーが楽劇という新しいスタイルのオペラを確立した記念碑的な作品である。示導動機(ライトモティーフ)がもつれ合いながら音楽は休みなく続くので(無限旋律)、独立したアリアはない。初演は大成功であったが、間もなくこの曲は忘れられ、1876年ベルリン王立劇場で再演されて以来、世界各地で上演されるようになった。


第一幕

 

 アイルランドからコーンウォールへ向かう船の上。アイルランドの王女イゾルデはコーンウォールのマルケ王に嫁ぐため、王の甥にあたる騎士トリスタンに伴われて船旅の途中にある。イゾルデは突然体を起こして、侍女ブランゲーネに私は上陸したくない、嵐で船が沈んでしまえばよいと言う。そして息が詰まりそうだからと天幕を開けさせる。すると前甲板で舵を取っているトリスタンの姿が見える。イゾルデは挨拶にも来ないトリスタンを呼びにブランゲーネをやるが断られ、トリスタンの従者クルヴェナールにも嘲笑(ちょうしょう)気味に昔話を聞かされる(モロルトの歌「海に乗り出したモロルト殿は」)。怒ったイゾルデも、腹いせに昔話をブランゲーネに語って聞かせる(タントリスの歌「一艘(そう)の小舟が」)。それによると、トリスタンはかつての戦いでイゾルデの求婚者モロルトを殺した際に傷ついたが、タントリスと名乗っていた彼をイゾルデが秘薬で治してやったことがある。タントリスは後に求婚者の仇(かたき)とわかったが、どうしても殺せなかった。そのトリスタンが老王の妃になる自分を迎えに来た運命を嘆く。

 イゾルデはトリスタンを殺して自分も死ぬ覚悟をすると、ブランゲーネに用意した毒薬を出すよう命じ、間もなく到着すると知らせに来たクルヴェナールに、再度トリスタンにここへ来るよう伝えさせる。薬を出したイゾルデはブランゲーネに別れを告げる。イゾルデは、ようやく現われたトリスタンに対する愛を隠したまま、今までの恨みつらみを口する。そして最後に和解の杯を交わそうと言って毒薬の入った杯をトリスタンに渡す。トリスタンはそれが死の杯と知って飲むが、半分ほど飲んだところでイゾルデが杯を奪って飲み干す。

 だがそれは毒薬ではなく、ブランゲーネが入れ替えておいた愛の薬だったので、二人に熱い恋が燃え上がって抱擁する。その時、船はコーンウォールの港に到着する。ブランゲーネは、イゾルデの問いに愛の薬だったと答えるので、イゾルデはトリスタンの腕の中で失神する。人々の歓声の中に二人はふらふらと上陸する。


第二幕

  

 マルケ王の城の中庭。マルケ王は、部下のメロートの勧めで夜の狩りに出発する。それを待ちかねた王妃イゾルデは、ブランゲーネがメロートの入れ知恵だからと忠告するのを気にも留めずに、恋人トリスタンに逢い引きの合図を送る。ブランゲーネは愛の薬を与えたことを後悔するが、イゾルデは、これは愛の女神がなせる業だと言う。

 やがてトリスタンが息せき切って現れ、二人は固く抱き合うと、永遠の夜をたたえて恍惚(こうこつ)の時を過ごす(「愛の夜よ、とばりを降ろせ」)。遠くからブランゲーネの警告の声が聞こえる。二人の愛の高揚が頂点に達した時、クルヴェナールが駆け込んで来て、マルケ王の帰城を知らせる。夜の狩りは、やはりトリスタンと王妃の不義を疑ったメロートの仕組んだ罠だったのである。メロートに案内されて不義の現場に踏み込んだ王は、恋人たちを責めるよりも愛する甥に裏切られた苦しみを切々と訴えるので、トリスタンは夜の国へ赴くことを決意し、イゾルデもそれに従うと言って二人は接吻する。それを見て立腹したメロートが剣を抜くので、トリスタンも剣を抜いて、嫉妬(しっと)に狂ったメロートの背信を責める。メロートが斬りかかると、トリスタンはわざと剣を落として重傷を負ってクルヴェナールの腕の中に倒れ、イゾルデはトリスタンの胸に身を投げる。

 

第三幕

 

 ブルターニュにあるトリスタンの城。重傷を負ったトリスタンは、クルヴェナールによって海の見える昔の居城に運ばれて来ている。牧童が物悲しい笛を吹きながら現れて、クルヴェナールにトリスタンの容態を尋ねる。クルヴェナールは牧童に、船が見えたら陽気な旋律を吹くように頼む。昏睡状態から目覚めたトリスタンは、まだ意識朦朧(もうろう)としてイゾルデへの愛を語ったり愛の薬を呪ったりする。クルヴェナールはトリスタンの傷を治せるのはイゾルデしかいないと思い、既にコーンウォールに使者を遣わしてイゾルデの到着を待ちこがれているところだとトリスタンに告げる。トリスタンは恋人の名前を聞いて喜び、やがて興奮のあまり失神する。彼が息を吹き返して錯乱しながらイゾルデへの憧れを歌い続ける中に、船が近づいた合図を知らせる牧童の笛の音が聞こえる。トリスタンは立ち上がると、包帯を引きちぎってイゾルデを迎えようとするが、力尽きて駆けつけたイゾルデの腕の中で息絶える。悲しみのあまりイゾルデも気を失う。その時、牧童がもう一艘の船が着いたと知らせる。それはマルケ王とメロートの一行だった。クルヴェナールは大急ぎで門の鍵を掛けようとするが、マルケ王の兵士は城内に入って来る。

 クルヴェナールはメロートを討ち倒すが、他の兵士に重傷を負わされてトリスタンの足元で息絶える。マルケ王はブランゲーネの告白を聞いて、王妃とトリスタンの仲を許すためにやって来たのだが、すでにトリスタンをはじめ、クルヴェナールもメロートも死んでしまった惨状に心を痛める。ブランゲーネの腕の中で息を吹き返したイゾルデは、法悦の中に愛を歌って息絶える(イゾルデの愛の死「優しくかすかな彼のほほえみ」)。

Reference Materials



初演
1865
年6月10日 ミュンヘン宮廷劇場

原作
ゴットフリート・フォン・シュトラスブルクの同名叙事詩など

台本
リヒャルト・ワーグナー/ドイツ語

演奏時間
第1幕75分、第2幕72分、第3幕71分(ベーム盤CDによる)

参考CD
●ニルソン、ルートヴィヒ、ヴィントガッセン、ヴェヒター/ベーム指揮/バイロイト祝祭管・唱(DG

参考DVD
●マイアー、シュヴァルツ、コロ、サルミネン、ベヒト/バレンボイム指揮/バイロイト祝祭管・唱(PH

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  


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