詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ドイツオペラ
R. Wagner, Tannhäuser 1843~45
タンホイザー[全3幕]ワーグナー作曲
❖登場人物❖
領主ヘルマン(B) タンホイザー(T) ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ(Br) ワルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(T) ビテロルフ(B) エリーザベト(S) ヴェーヌス(S)他
❖概説❖
ワーグナーのオペラの中で最もポピュラーな作品。初演されたドレスデン版の他に、1861年3月13日パリ・オペラ座で上演されたバレエ入りのパリ版がある。物語は二つの無関係な題材を合体させたもので、正式の曲名は「タンホイザーとワルトブルクの歌合戦」という。
第一幕
第一場 ヴェヌスブルクの洞窟(どうくつ)。騎士タンホイザーは、愛の女神ヴェーヌスのひざ枕で眠っている。海の精の声が聞こえ、ニンフたちが官能的な踊りを繰り広げている。目を覚ましたタンホイザーは、もう歓楽の世界に飽きて現実の世界に戻りたいと言うが、ヴェーヌスは甘い言葉で彼を誘惑して引き留めようとする。
タンホイザーは竪琴を取って、ヴェーヌスを賛歌するが(「あなたをたたえて歌う」)、途中でどうしても郷愁の念を抑え切れなくなる。ヴェーヌスもますます妖艶な歌を歌い、ついにはタンホイザーを裏切り者と罵る。しかしタンホイザーがマリアに救済を求めると、ヴェーヌスは悲鳴を上げて倒れ、ヴェヌスブルクは消え去る。
第二場 ワルトブルク城近くの谷間。タンホイザーは突然自分が美しい谷間にいることに気づく。春の明るい陽がさし、牧童が笛を吹きながら美しい五月をたたえている。そこにローマへ行く巡礼たちが通り過ぎるので、タンホイザーは祈りを捧げる。やがて遠くから角笛の音が近づき、狩りの帰途の領主ヘルマンが騎士たちを連れて通りかかり、タンホイザーを見つける。騎士たちは長い間行方不明だったタンホイザーが帰って来たと喜び、中でもヴォルフラムは再び仲間に戻るように熱心に誘うが、官能の情欲に溺れた罪の意識からタンホイザーは躊躇(ちゅうちょ)する。しかしヴォルフラムから領主の姪エリーザベトが、ずっとタンホイザーを待ち続けていると聞くと、彼女に対する愛を呼び覚まされて、城に戻ることに同意する。領主と騎士たちは、タンホイザーとともに城への帰途につく。
第二幕
ワルトブルク城の歌の殿堂。エリーザベトはタンホイザーが失踪して以来、久々にここに足を運んで歌合戦に参加する喜びを歌う(歌の殿堂「おごそかなこの広間よ」)。そこにヴォルフラムに導かれて現れたタンホイザーは、エリーザベトの足許にひざまずく。
純潔なエリーザベトはタンホイザーがどんなところにいたか想像もできず、二人はただ激しく再会の喜びに抱き合う。その様子を見ていたヴォルフラムは、エリーザベトに対する密かな想いをあきらめなければならないと悟る。そして歌合戦の支度のためにタンホイザーとともに立ち去る。領主が現れ、姪の恋心を知って優しい言葉をかける。
トランペットの高らかな吹奏とともに歌合戦が始まり、大広間には騎士や貴族たちが続々と入場して来る(大行進曲「歌の殿堂をたたえよう」)。挨拶に立った領主は、今日の歌合戦の課題が愛であると宣言する。
最初に立ったヴォルフラムは清らかな愛の尊さを歌うが(「この高貴な集いを見渡せば」)、魔性に捕らわれたタンホイザーは竪琴を取って、愛の本質は歓楽だと反論する。ワルターに続き、ビテロルフもヴォルフラム側に立つと、感情を抑え切れなくなったタンホイザーはついにヴェーヌスを賛美するので、彼がどこにいたか露見してしまう。
貴族たちは彼を非難し、貴婦人たちは驚いて殿堂から立ち去る。騎士たちは剣を抜いてタンホイザーに迫るが、エリーザベトが必死に彼をかばって改悛(かいしゅん)の機会を与えるよう懇願するので、タンホイザーも悔悟の念に目覚める。そこで領主は、罪を償うために巡礼になってローマ法王の赦免を得て来るように命じる。折から若い巡礼の一団が通りかかり、タンホイザーは“ローマへ”と叫んで旅立つ。
第三幕
ワルトブルク城近くの谷間。丘の上のマリア像に祈っているエリーザベトをヴォルフラムは見守り、その真情に同情する。罪を赦された巡礼たちが通りかかるが(巡礼の合唱「故郷よ、また見る野山」)、エリーザベトはその中にタンホイザーの姿を見つけることができない。
彼女は再びマリア像に向かって祈りを捧げ(エリーザベトの祈り「万能の処女マリア様!わが願いをおきき下さい」)、彼の罪が赦されるなら自分の命を召されてもよいと言う。彼女が去って行くのを見送ったヴォルフラムは、彼女の死が遠くないことを予感して、竪琴を弾きながら夕星に彼女の無事を祈る(夕星の歌「優しい夕星よ」)。
日がすっかり暮れた頃、げっそりとやつれ果てた巡礼姿のタンホイザーが現れ、自暴自棄になってヴォルフラムにヴェヌスブルクへの道を尋ねるので、びっくりしたヴォルフラムは彼を詰問する。やがてヴォルフラムの友情に心を動かされたタンホイザーは、ローマへ行った時のできごとを延々と語り出す(ローマ語り「心の熱意で」)。それによると、彼は苦行しながらローマへたどり着いて法王に罪の赦しを請うたが、法王はひとたびヴェヌスブルクに留まった者は永遠に呪われ、僧杖に新緑の芽が出ないようにお前も永遠に赦されることがないと宣告されたと言う。
絶望したタンホイザーは、もうヴェヌスブルクへ行くしかないと言い、ヴェーヌスの名を呼ぶと、あたりは妖気に包まれてヴェーヌスが姿を現し、タンホイザーを迎え入れようとする。ヴォルフラムはそれを阻止しようとして揉み合い、エリーザベトの名を呼ぶと、タンホイザーは夢から覚め、ヴェーヌスも消える。遠くからエリーザベトの亡骸(なきがら)を運ぶ葬列が近づき、タンホイザーはその棺の上に倒れて息絶える。巡礼たちは、僧杖が新緑をつけたと言い、ハレルヤを叫んで神をたたえる。
Reference Materials
初演
1845年10月19日 ドレスデン宮廷歌劇場
原作
ルートヴィヒ・ティーク/「忠実なエッカルトとタンホイザー」、E.T.A.ホフマン/「歌手たちの戦い」、グリム兄弟/「ドイツ説話集」/中の「ワルトブルク合戦」など
台本
リヒャルト・ワーグナー/ドイツ語
演奏時間
第1幕69分、第2幕67分、第3幕52分(ショルティ盤CDによる)
参考CD
●デルネシュ、ルートヴィヒ、コロ、ブラウン、ゾーティン/ショルティ指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D)
参考DVD
●マルトン、トロヤノス、キャシリー、ヴァイクル/レヴァイン指揮/メトロポリタン歌劇場管・唱(DG)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止
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