さまよえるオランダ人[全3幕]ワーグナー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

R. Wagner, Der fliegende Holländer 1841
さまよえるオランダ人[全3幕]ワーグナー作曲


❖登場人物❖

オランダ人(Br) ダーラント(B) ゼンタ(S) エリック(T) マリー(Ms) 舵手(T)

概説

 破棄された作品を加えれば、ワーグナーにとって五作目に当たるこのオペラは初期の代表作である。1839年夏のロンドン航路でワーグナー自身体験した嵐が、この曲の成立に関係があると言われる。

 元来一幕ものとして着想されたが、当時の慣習に従って三幕仕立てにしたもので、ワーグナーは全曲通して上演されることを望んだ。

 

第一幕

 

 絶壁をなすノルウェイの海岸。激しい嵐を避けて一艘(そう)の船が入江に錨(いかり)を下ろす。ダーラント船長は娘ゼンタの顔を早く見たいのに、家の近くまで来てこんな目に会うなんてとぼやく。船長は水夫に仕事を休ませると、舵手に見張りを頼んで船室に入る。舵手は遠い航海から早く家に帰りたいと故郷を偲ぶが、そのうち眠気をもよおして寝込んでしまう。

 やがてあたりが暗くなると、黒いマストに赤い帆をつけた不気味な幽霊船が突如現れて、ダーラントの船の側に接岸する。幽霊船の中から青ざめた顔のオランダ人の船長が現れて上陸すると、呪われた自分の宿命を嘆く(「期限は切れた何度も海の底深く」)。彼は悪魔に呪われて、七年に一度だけ上陸を許され、その時に永遠の愛を誓う女性を得られれば救われるが、さもなければ永遠に七つの海をさまよう運命にあると言う。

 目を覚ましたダーラントが甲板に出て見ると、見知らぬ船が隣に停泊しているのに驚き、居眠りしている舵手を揺り起こす。ダーラントはオランダ人を見つけると、自分も上陸して彼に話しかける。

 オランダ人は、自分は諸国を巡って多くの財宝を手に入れたと言ってダーラントにそれらを見せ、財宝と引き換えに一夜の宿の提供を求める。さらにダーラントから娘がいると聞いたオランダ人は、もし妻にもらえるならすべての財宝を譲ると言うので、欲に目がくらんだダーラントは喜んでこの申し出を受ける。折から嵐も収まり、水夫たちは錨を上げると、二艘の船はダーラントの故郷に向けて出帆する。

第二幕

  

 ダーラントの家の大きな部屋。村の娘たちが糸車を回しながら糸を紡いでいる(糸紡ぎの合唱「ぶんぶん回れ糸車」)。一人ゼンタは壁にかけてあるオランダ人の肖像画を見つめている。仕事がはかどらないのを乳母マリーは気遣うが、やがてゼンタは夢見るように、絵に描かれたオランダ人の伝説を皆に語る(ゼンタのバラード「ヨホホエ!真っ赤な帆に黒いマストの船を」)。感激の頂点に達すると、この男を救わねばならないと言うので、娘たちやマリーはいぶかる。

 そこにゼンタの恋人で狩人のエリックが入って来て、ダーラントの船が港に戻って来たと伝えるので、娘たちは港に向かう。エリックはゼンタを引き止めると、昨日見た夢の中で、壁の絵とそっくりな男をあなたの父親が連れて来て、あなたはその男に熱い接吻をしてから海の上を遠くに消え去ったと話す。夢の話を聞いてゼンタは異常に興奮するので、エリックはあれは正夢だったのかと叫ぶと、絶望して走り去る。

 そこにダーラントがオランダ人を連れて入って来る。ゼンタがオランダ人をじっと見つめたまま挨拶もせずに立っているので、ダーラントはゼンタにオランダ人を紹介し、一夜の宿を提供する約束をしたと話す(「娘よ、この見知らぬ方を歓迎しておくれ」)。そして、もし気に入るならばお前の婿になる人だと言って座をはずす。

 ゼンタとオランダ人はしばらく見つめ合っていたが、やがて二人は運命に導かれるように静かに想いを語り出す。オランダ人は、自分にかけられた呪いを解いてくれるのはあなただけだと言い、ゼンタも彼の救済のために愛を誓う(「遠く忘れられた古い時代の中から」)。頃合いを見計らってダーラントが戻り、二人の婚約の意志を確かめる。

第三幕

 

 二艘の船が停泊している夜の海岸。灯火をつけたノルウェイ船の甲板では、水夫が陽気に歌い(水夫の合唱「見張りをやめろ」)、やって来た娘たちもそれに声を合わせる。皆は静まりかえっているオランダ船に声をかけるが、反応がない。

 その時、それまで沈黙していたオランダ船が急にうす青い炎に照らされ、オランダ船の乗組員たちが不気味な歌を歌い出すので、恐ろしくなったノルウェイ船の水夫や娘たちは十字を切って逃げ去る。それを見てオランダ船の乗組員は耳を裂くような大声で嘲笑(ちょうしょう)を浴びせかけるが、やがて騒ぎも鎮まる。

 そこにゼンタと、彼女を追ってエリックが現れる。エリックは彼女が父親の連れて来た見知らぬオランダ人との結婚を承諾したと聞いて彼女の不実を責めるが、ゼンタはオランダ人について行くのは自分の崇高な義務だときっぱりと言う。エリックは昔自分を抱いてくれた日のことを語ってゼンタに迫る(「あの頃のことをあなたは思い出さないのか」)。

 すると物陰でこの会話を聞いていたオランダ人が姿を現し、これで救済は永遠に失われたと言ってゼンタに別れを告げる。ゼンタは待って欲しいと言うが、オランダ人はゼンタの裏切りを激しく非難しながらも、自分の犠牲になるよりここに留まるようにと言い、乗組員に出港の準備を命じる。そして、自分こそ天に呪われて永遠に海をさまようオランダ人であると正体を明かし、すばやく船に乗って出帆する。

 ゼンタはエリックやダーラントの制止を振り払って海中に突き出た岩に駆け上がり、オランダ人への永遠の忠誠を誓って海に身を投げる。するとオランダ人の船は海中に沈み、しばらくして海が鎮まると、海の彼方にゼンタとオランダ人の浄化された姿が現れ、手を取り合って朝の陽光の中に昇天して行く。



Reference Materials



初演
1843
年1月2日 ドレスデン宮廷歌劇場

原作
ハインリヒ・ハイネ/「フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想より」中の幽霊船の中世伝説、ヴィルヘルム・ハウフの「幽霊船の物語」など

台本
リヒャルト・ワーグナー/ドイツ語

演奏時間
第1幕57分、第2幕64分、第3幕31分(クレンペラー盤CDによる)

参考CD
●シリヤ、コツーブ、アダム、タルヴェラ/クレンペラー指揮/ニュー・フィルハーモニア管、BBC唱(EMI

参考DVD
●バルスレフ、エステス、サルミネン/ネルソン指揮/バイロイト祝祭管・唱(DG

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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