マルタ[全4幕]フロトウ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

F. v. Flotow, Martha 1847
マルタ[全4幕]フロトウ作曲


登場人物

レディ・ハリエット・ダラム(S) ナンシー(Ms) トリスタン・ミクルフォード卿(B) ライオネル(T) プランケット(B) リッチモンドの判事(B)他

概説

 ドイツのジングシュピールの伝統を受け継いだコミック・オペラの代表作のひとつであり、娯楽性と芸術性が見事に両立している。初演から大成功を収め、リストやワーグナーも好んでこの曲を指揮した。正式題名は「マルタ、またはリッチモンドの市場」という。なお第三幕のライオネルのアリア「夢のように」は、イタリア語訳の「マッパーリ」として有名である。

 

第一幕

 

 第一場 アン女王の女官ハリエットの居間。朝の化粧をしている美貌(びぼう)の若いハリエットは、単純な宮中での生活に飽き飽きして、彼女に仕える親友ナンシーに、何か面白いことはないかと言う。そこにいとこのトリスタンが現れ、しきりに彼女の気を惹こうとするが相手にされない。その時、遠くから出稼ぎに行く村娘の声が聞こえるので、ハリエットは百姓娘に変装してリッチモンドの奉公人市場へ行ってみようと言い出し、二人は渋るトリスタンを連れて出かける。

 第二場 リッチモンドの奉公人市場が立つ広場。女中を見つけに来た人々や、田舎から出て来た出稼ぎ娘たちで広場はにぎわっている(農民たちの合唱「おとなしく真面目な娘さんたちよ」)。村の裕福なプランケットと義弟のライオネルも女中を探しに来ているが、二人は身の上話をする。それによると、ライオネルはプランケット家に身分を隠したまま身を寄せているが、追放の身の父親が死の間際に、窮地に陥った時に女王にこれを見せると助かるだろうと言って指輪を残したことが語られる。

 判事が市場の規則を読み上げて、市場が始まる。出稼ぎ娘たちは台の上で次々と得意の仕事を述べて、雇い主に引き取られていく。ライオネルたちは美しいハリエットとナンシーに目をつけて熱心に契約を迫るので、二人は面白半分に奉公人になる契約をして、手付金を受け取ってしまう。トリスタンは制止するが、判事や民衆は契約は有効として、二人はライオネルたちに連れて行かれる。

第二幕

  

 プランケットの家の中。男たちは良い娘を見つけたと喜び名前を尋ねるので、ハリエットはマルタ、ナンシーはユリアと偽名を名乗る。男たちはさっそく仕事を言いつけるが、何も仕事ができない二人は悪戯(いたずら)心が招いたできごとに途方に暮れる。プランケットはしびれを切らして糸車の回し方を教えるが、嫌になったナンシーは糸車を床に投げつけて別室に逃げるので、プランケットは彼女を追いかけて行く。

 一方、ハリエットに心を奪われているライオネルは、歌が好きだと言う彼女に優しく歌を所望する。彼にほだされて歌うのがアイルランド民謡であるが(「夏の名残のばら(庭の千草)」)、彼女に夢中になったライオネルが求婚するので、ハリエットは困惑する。そこにプランケットとナンシーが戻って来て、四人はお休みを言って別れる。しばらくすると、外から窓を叩く音が聞こえ、トリスタンがハリエットとナンシーを助けに来て連れ出し、馬車で逃走する。これに気づいたプランケットたちは、下男たちに三人の男女を追わせる。

第三幕

 

 居酒屋のある森の中。プランケットが陽気に酒を飲んでいると、狩りを楽しむ女王の一行が現れる。その中に勇ましい狩の歌を歌っているナンシーを見つけたプランケットは、彼女を連れ戻そうとするが、彼女は人違いだと言い張り、武器を振りかざす女官や狩人に遮られるので逃げ出す。一方、ハリエットを忘れ切れないライオネルは、彼女が残して行った花束を手にして彼女への想いを痛切に歌う(「夢のように」)。

 トリスタンから離れて一人散策しているハリエットは、ばったりとライオネルに出会う。ライオネルは彼女に想いのたけを伝えようとするが、動転したハリエットは、こんな男は知らないと言い、作男と罵るので、ライオネルは自分はお前の主人だと怒る。彼は駆けつけたトリスタンや女官たちに捕らえられてしまうので、ハリエットとナンシーは良心の呵責(かしゃく)に悩む。この時、ライオネルは父の形見の指輪をプランケットに渡し、女王に渡してくれるように頼む。


第四幕

 

 第一場 第二幕と同じプランケットの家の中。ハリエットとナンシーが訪ねて来る。女王に渡した指輪から、ライオネルがダービー侯の遺児であるとわかり、彼に女王から爵位が与えられることを伝えに来たのである。ハリエットは今度こそ本当の愛をライオネルに捧げようとする(「あの大切な方をなだめよう」)。しかしすっかり人嫌いになったライオネルは、ふさぎ込んで出て来ようとしない。ハリエットは皆を去らせると、「夏の名残のばら」を歌う。するとライオネルが出て来るので爵位継承書を渡そうとするが、彼はそんなものは要らないと言う。最後の手段を考えついたハリエットは、意気投合したナンシーとプランケットの手助けを得ることにする。

 第二場 プランケットの家の前の広場。一同は土地の人々の協力を得て広場をリッチモンドの奉公人市場と同じように飾り立て、一人の男を判事役に仕立てる。家から出て来たライオネルは、マルタ姿に扮したハリエットを見て心を開き、ハリエットの求愛を受け入れる。ナンシーもプランケットと結ばれる。ハリエットが歌う「夏の名残のばら」に一同も加わって皆は幸福を謳歌する。


Reference Materials



初演
1847
1125日 ケルントナートーア劇場(ウィーン)

原作
サン・ジョルジュ/バレエ「レディ・アンリエット、または
グリニッチの女官」第1幕(作曲フロトウ)

台本
ヴィルヘルム・フリードリヒ/ドイツ語

演奏時間
第1幕50分、第2幕29分、第3幕27分、第4幕25分(ヘーガー盤CDによる)

参考CD
●ローテンベルガー、ファスベンダー、ゲッダ、プライ/ヘーガー指揮/バイエルン国立歌劇場管・唱(EMI

ポップ、ゾッフェル、イェルザレム、リッダーブッシュ/ワルベルク指揮/ミュンヘン放送管、バイエルン放送唱(Eur

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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