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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ドイツオペラ
L. v. Beethoven, Fidelio 1804~05
フィデリオ[全2幕]ベートーヴェン作曲
❖登場人物❖
ドン・フェルナンド(Br) ドン・ピツァロ(Br、B) フロレスタン(T)
レオノーレ(フィデリオ)(S) ロッコ(B) マルツェリーネ(S) ヤキーノ(T)他
❖概説❖
ベートーヴェンの完成された唯一のオペラである。声楽的というよりも器楽的に書かれているが、壮麗な音楽であることから祝典的な機会に上演されることが多い。
フランス軍占領下のウィーンでの初演は失敗に終わったが、その後再三にわたって大幅な改訂が行われ、1814年に現行の決定版が完成した。なおこの曲のために書かれた序曲は四曲あるが、そのうち序曲「レオノーレ」第三番は、マーラーが第二幕の終曲の前に演奏して以来、ここに挿入されることが多い。オリジナル版の題名は「レオノーレ」。
第一幕
スペインの政治犯監獄の中庭。門番のヤキーノは牢番ロッコの娘マルツェリーネに恋していて洗濯物の片づけをしている彼女に言い寄るが、彼女は新入りの獄卒フィデリオに惹かれているので色よい返事をしない。
ヤキーノが立ち去ると、マルツェリーネはフィデリオに対する憧れを歌う(「もし私があなたと結婚できて」)。ロッコが現れて、フィデリオの帰りを待っていると、鎖をかついだ彼が戻って来る。ロッコはフィデリオの仕事ぶりをほめ、彼を娘婿にしようとほのめかすが、実は夫フロレスタン救出のため、男装してフィデリオと名乗ってこの刑務所に潜入しているレオノーレは困惑する。喜ぶマルツェリーネと落胆するヤキーノを加えた四重唱となる(「不思議な気持ち」)。
ヤキーノが仕事場に立ち去ると、お人好しのロッコはフィデリオに、娘の婿にしようと言い、人間には金が必要だと彼の単純な人生哲学を述べるが(「人間、金を持っていなければ」)、フィデリオは金よりも信頼が大切だと答え、秘密の地下牢の仕事も手伝わせてくれるように頼む。そして、そこには二年前から重要な国事犯が幽閉されていて、食事も満足に与えられていないことを聞き出し、それが夫ではないかと思う。ロッコはフィデリオの願いを監獄所長に伝えようと言う。
フィデリオとマルツェリーネが去った後、行進曲とともに監獄所長ピツァロが現れる。彼はロッコから渡された手紙で、この監獄に不法に監禁されている国事犯がいるとの密告があり、司法大臣フェルナンドが視察に来ることを知る。大臣に不法監禁の件が露見したら終わりだと、ピツァロは大臣が来る前に政敵フロレスタンを始末してしまおうと決意する(「ああ、何という瞬間だ」)。
彼はラッパ手に大臣到着を知らせるよう見張りを命じ、ロッコには金を与えてフロレスタンを殺すよう命じるが、ロッコは尻込みをする。ピツァロはそれなら自分でやるから墓穴を掘っておくようにと命じて去る。その様子を立ち聞きしていたレオノーレは、激しい怒りを込めて夫の救出を力強く誓う(「悪者よ、どこへ急ぐ…来たれ、希望」)。
フィデリオの提案によって、ロッコは囚人たちを中庭に出す。彼らは久しぶりに太陽の光を浴びて喜ぶが(囚人の合唱「おお、何という自由のうれしさ」)、レオノーレはもしやその中に夫がいないかと見て回る。
ロッコが戻って来て、ピツァロから地下の墓掘りの仕事をフィデリオに手伝わせる許可をもらって来たと言う。そこに囚人を外に出したことを怒ったピツァロが現れて、厳しくロッコの処置を責めるので、ロッコは弁解してピツァロをなだめる。
囚人たちは名残り惜しそうに監獄に戻され、ピツァロはロッコに早く地下の墓穴を掘るように命じる。
第二幕
第一場 暗い地下牢。鎖につながれて幽閉されているフロレスタンは不幸な運命を嘆き、たとえこのまま死んでもレオノーレが天国に導いてくれるだろうと歌うと(「神よ、何という暗さだ…人の世の美しき春にも」)、力尽きて岩の上に倒れ伏す。そこにロッコとレオノーレが降りて来て墓穴を掘り始める。ロッコはレオノーレに仕事をせかすが、彼女は夫のことが気が気でない。目を覚ましたフロレスタンは、ロッコからここの所長がピツァロだと聞き出して事の真相を知ると、妻への伝言を頼むが、ロッコはそれはできないと断る。フロレスタンが一杯の水を求めると、レオノーレは隠し持って来た酒とパンを与えるので彼は感謝するが、それがレオノーレであるとは気づかない。
墓穴の用意ができてロッコが口笛で合図をすると、ピツァロが現れる。ピツァロは今こそチャンス到来とばかり短剣を抜いてフロレスタンを刺し殺そうとしたその瞬間、フィデリオが物陰から飛び出して、まず妻から殺せと叫び、レオノーレであることを名乗る。そしてピストルをピツァロに突きつけて、近寄れば命はないと身構える。
皆は驚き、さすがのピツァロも一瞬ひるむが、次の瞬間気を取り直して短剣を持ち直した時、司法大臣の到着を知らせるラッパの合図が聞こえてヤキーノがピツァロを呼びに顔をのぞかせる。ピツァロはいまいましそうにロッコを従えて階段を上って行き、フロレスタンとレオノーレは再会を喜び、抱き合って神の恵みをたたえる。
〈序曲「レオノーレ」第三番〉
第二場 監獄の中庭。人々や解放された囚人たちが司法大臣フェルナンドをたたえ、正義の裁きを待ち望んでいる。大臣は国王の命令で不正を暴くためにやって来たと宣言する。そこにピツァロの制止も聞かずにロッコが進み出て、フロレスタンとレオノーレを大臣に引き合わせる。大臣は死んでしまったと思っていた同志フロレスタンとの再会に驚き感激して、レオノーレの勇敢な行為を賞賛する。大臣は弁解するピツァロの逮捕を命じると、レオノーレには夫の鎖を解くよう鍵を渡す。マルツェリーネはフィデリオが女だったのでがっかりするが、全員でけなげなレオノーレの献身的な行為と愛の力をたたえる。
Reference Materials
初演
1805年11月20日 アン・デア・ウィーン劇場
原作
ジャン・ニコラス・ブイイ/「レオノーレ、または夫婦愛」
台本
ヨゼフ・ゾンライトナー。現行版はゲオルク・フリートリヒ・トライチュケの改訂/ドイツ語
演奏時間
第1幕76分、第2幕58分(クレンペラー盤CDによる)
参考CD
●ルートヴィヒ、ハルシュタイン、ヴィッカーズ、フリック、ウンガー/クレンペラー指揮/フィルハーモニア管・唱(EMI)
参考DVD
●ヤノヴィッツ、ポップ、コロ、ゾーティン、ユングヴィルト、フィッシャー=ディースカウ/バーンスタイン指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場・唱(DG)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止