ティト帝の慈悲[全2幕]モーツァルト作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

W. A. Mozart, La Clemenza di Tito 1791

ティト帝の慈悲[全2幕]モーツァルト作曲


❖登場人物❖

ティトゥス(T) セクストゥス(Ms) ヴィッテリア(SMs) セルヴィリア(S) 

アンニウス(A) プブリウス(B)

概説

 レオポルド二世のボヘミア王としての戴冠式の祝典のために、わずか十八日という説もあるほどごく短期間で作曲された。台本が類型的なオペラ・セリアであるだけに、オペラとしての面白味には欠けるが、近年その評価が高まりつつある。


第一幕

 

 第一場 ヴィッテリアの部屋。自分に皇妃継承権があると信じる先帝の娘ヴィッテリアは皇妃の座を狙っているが、皇帝ティトゥスがユダヤのヘロデ王の娘ペレニーチェと結婚することになったのに怒って、恋人セクストゥスに皇帝暗殺を唆(そそのか)す。皇帝に忠誠なセクストゥスは皇帝の徳を述べてその計画を止めさせようとするが、ヴィッテリアへの愛から暗殺を引き受けてしまう。

 そこにセクストゥスの友人アンニウスが現れて、皇帝とペレニーチェとの結婚は中止になったと知らせると、皇妃になる希望を持ったヴィッテリアは暗殺計画を延期させる。そうした彼女の態度に、セクストゥスは彼女が本当に自分を愛しているのかと疑うが、ヴィッテリアは私を喜ばせたいのなら疑わないで私を信じてと言って立ち去る(「私を喜ばせたいのなら」)。セクストゥスの妹セルヴィリアを愛しているアンニウスは、皇帝から彼女との結婚許可を得てくれるようセクストゥスに頼む。彼は快くそれを引き受け、二人は固い友情を誓う。

 第二場 フォロ・ロマーノの一角。民衆の歓呼の中に皇帝が現れ、人々を去らせる。皇帝はセクストゥスを呼ぶと、彼の妹セルヴィリアを皇妃にすると告げる(「最高の王座にある者の喜びは」)。

 セクストゥスはアンニウスへの気兼ねから躊躇(ちゅうちょ)する。傍らで聞いていたアンニウスは絶望するが、皇帝への忠誠心からセルヴィリアへの愛をあきらめる。皇帝はセルヴィリアが皇妃になると彼女に伝えるようアンニウスに命じると、セクストゥスを連れて立ち去る。そこにセルヴィリアが現れるので、アンニウスは苦しい胸の中を隠して皇帝の命令を伝え、彼女への想いを断ち切ろうとする。しかし彼女はアンニウスへの変わらない愛を告白する。

 第三場 パラティヌスの丘の上にある宮殿の安息所。セルヴィリアが現れ、自分は既にアンニウスを愛していると皇帝に正直に告白する。皇帝は彼女の正直さをたたえて、最高の王座にある者としての寛容を示して彼女との結婚をあきらめる。そして新たにヴィッテリアを妃にしようと決心する。皆が立ち去った後、そうと知らないヴィッテリアがやって来て、再びセクストゥスにカンピドリオの丘の宮殿に火を放って皇帝を暗殺するよう唆す。セクストゥスは躊躇(ちゅうちょ)しながらも実行を誓い(「私は行くが、君は平和で」)、彼女に安心するよう言って立ち去る。そこに親衛隊長プブリウスが現れ、ヴィッテリアに彼女が皇妃に選ばれたと伝える。彼女はセクストゥスを探すが、彼は既にカンピドリオの宮殿に向かった後である。

 第四場 カンピドリオの丘の前の広場。セクストゥスは罪の大きさを恐れながらも、決心を固めて宮殿に入って火を放つ。間もなく皇帝の身を案じながら、人々が火災の現場から逃れて来る。罪を悔やむセクストゥスに、ヴィッテリアは絶対に自白しないよう命じる。人々が皇帝の安否を気遣い、事件に恐れをなす中で幕となる。

第二幕

 

 第一場 パラティヌスの丘の上にある宮殿の安息所。セクストゥスが罪を償うために放浪の旅に立とうとしていると、アンニウスが皇帝は無事だったと話しかける。セクストゥスは友人であるアンニウスに、自分が放火犯人であると打ち明ける。

 アンニウスはセクストゥスに、苦しみを内に秘めて皇帝に忠誠を尽くすことによって過ちを悔いるよう忠告して去る。そこにヴィッテリアが現れて、セクストゥスに早く逃げるように言うが、プブリウスが彼を逮捕しに来る。セクストゥスは良心の呵責(かしゃく)に苦しむヴィッテリアに別れを告げると、衛兵たちに連行されて行く。

 第二場 宮殿の大広間。人々が皇帝の無事を喜んでいる。皇帝は信頼していたセクストゥスが裏切るなどとは信じられないでいるが、プブリウスは元老院の判決をたてに皇帝に死刑執行書の署名を求める。アンニウスが助命を願いに来るが、セクストゥスの罪の裏に何か理由があると考えた皇帝は、セクストゥス本人に直接事情を尋ねることにする。セクストゥスは死を決意して罪を告白するが、ヴィッテリアへの愛と皇帝への忠誠の相克に悩んで真相は明かさない(「ああ、ただ一度心を開いて」)。怒った皇帝は、プブリウスにただちに彼を闘技場に引き立てるよう命じるが、やがて自制心を取り戻すと、帝位にある者の悩みを歌って立ち去る(「もし皇帝であるがために」)。

 ヴィッテリアが現れて、セクストゥスが既に自分の罪を暴いてしまったものと思っている。アンニウスとセルヴィリアが連れ立って現れ、ヴィッテリアにセクストゥスの助命をとりなしてくれるよう願う。ヴィッテリアはセクストゥスが彼女の罪を告白しなかったと知り、ようやくセクストゥスへの愛に目覚め、自分が皇帝の花嫁になるのを恥じる(「夢に見し花嫁姿」)。そして皇帝との結婚をあきらめ、罪を告白するために闘技場に向かう。

 第三場 円形闘技場。人々が集まり、皇帝がセクストゥスに罪の処置を告げようとした時、ヴィッテリアが息せき切って駆け込んで来てすべての罪の原因は自分にあると告白する。実は皇帝はセクストゥスを許そうとしていたのだが、新たな出現した罪人が、よりによって皇妃になる人だけに驚き当惑する。しかし他人の背信よりも自分の慈悲の力の方が強いと信じる皇帝は全員の罪を許し、人々は寛大な皇帝をたたえる。

Reference Materials



初演
1791
年9月6日 プラハ国立劇場

原作
ピエトロ・メスタジオ

台本
カテリーノ・マッツォーラ/イタリア語

演奏時間
第1幕67分、第2幕70分(ベーム盤CDによる)

参考CD
●ラングリッジ、マレー、ポップ、ツィーグラー、ツィーザク/アーノンクール指揮/チューリヒ歌劇場管・唱(T

●シュライアー、ベルガンサ、ヴァラディ、シムル、マティス、アダム/ベーム指揮/ドレスデン国立歌劇場管・ライプツィヒ放送唱(DG

参考DVD
●シャーデ、カサロヴァ、レシュマン、ガランチャ/アーノンクール指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(DEN

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



 

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