後宮からの逃走[全3幕]モーツァルト作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

W. A. Mozart, Die Entführung aus dem Serail 1781~82

後宮からの逃走[全3幕]モーツァルト作曲


❖登場人物❖

太守セリム(語り役) コンスタンツェ(S) ブロンテ(S) ベルモンテ(T) ペドリロ(T) オスミン(B)


❖概説❖

 モーツァルトが取り組んだ最初の本格的なジングシュピールで、後のドイツ・ロマン・オペラの先駆をなした。初演は大成功を収め、皇帝ヨーゼフ二世が音符が多過ぎると評したのに対し、モーツァルトは音符は必要な量だけ使われていると自信を持って答えたという。なお題名は「後宮からの誘拐」と訳されることも多い。

  

第一幕

 

 海辺にある太守セリムの宮殿の前庭。航海中に海賊に捕らわれ、従僕のペドリロ、召使のブロンテとともに太守に売られてしまった恋人コンスタンツェを救出しようとやって来たベルモンテが、どうしたら宮殿に侵入できるかと思案している。

 そこに太守の宮殿の番人であるオスミンが無花果(いちじく)を摘みに現れるので追い払われてしまう。入れ違いにペドリロが現れると、彼を気に入らないオスミンは悪態をついて(「女に見とれてやって来た若僧は」)中に入ってしまう。

 そこにベルモンテが戻って来て、ペドリロとの再会を喜ぶ。ベルモンテはペドリロから、コンスタンツェは太守に気に入られて毎日のように口説かれているが元気だと聞いて喜ぶ(「コンスタンツェよ、また会えるとは」)。

 二人はコンスタンツェを誘拐して逃走する計画を相談し、まずはペドリロがベルモンテを建築家として太守に紹介する手はずを打ち合わせる。太守がやって来る様子に二人は隠れる。太守はコンスタンツェに、なぜ心を開いてくれないのかと問うと、彼女は運命によって恋人と引き離されてしまった境遇を嘆く(「ああ、私は幸福だった」)。しかし寛大な太守も、期限は明日までだと言い、彼女を立ち去らせる。そこにペドリロがベルモンテをイタリアの建築技師として紹介し、太守に彼を雇わせるのに成功する。この時オスミンが現れ、宮殿に入るのを阻止しようとして愉快な三重唱になるが、二人はオスミンを押しのけて庭園に入る。

第二幕

 

 宮殿の庭。そばにオスミンの住居がある。オスミンは女奴隷にされているブロンテに言い寄るが、彼女は乙女心を得るには優しく親切でなければ駄目と言う(「乙女心をとらえるには」)。オスミンは、ここはトルコだから奴隷は主人に絶対服従だと言うのに対し、彼女は、自分は自由の国イギリスの生まれだと言い返す。やがてオスミンは手を焼いて退散する。

 間もなくコンスタンツェが現れ、一人悲しい運命を嘆いていると(「深い悲しみに」)、太守が現れて今日の夜で返事の期限が切れると言う。返事によっては恐ろしい拷問にかけると脅すが、コンスタンツェは、どんな拷問を受けようとも私の心は変わらないと(「あらゆる苦しみが待ちうけていても」)、恋人への操を固く誓う。一人残った太守は、どうして彼女にあのような強い意志があるのかといぶかる。

 太守が立ち去った後にブロンテが現れ、続いてやって来たペドリロが彼女に逃走計画を説明するので、彼女は大喜びし(「なんという喜び」)、さっそくコンスタンツェにこの計画を知らせに行く。一人勇んでいるペドリロにオスミンが皮肉っぽく話しかけるので、ペドリロは酒を勧める。飲酒を禁じられているマホメット教徒のオスミンは誘惑に負けて酒を飲み、「バッカス万歳」と叫んでいるうちにすっかり酔いつぶれてしまう。

 ペドリロがオスミンを家の中に運び込むと、待ちかねているベルモンテの前にコンスタンツェを連れて来る。ベルモンテはコンスタンツェとの再会を喜び(「喜びの涙が流れるとき」)、ペドリロとブロンテも加わって四重唱となる。この曲の中で男二人はおのおのの恋人の貞操を疑うが、その疑いも晴れて愛をたたえて幕になる。

第三幕

 

 宮殿の前の広場。深夜にベルモンテが一人現れて愛の喜びを歌っている(「僕はあなたの力によりすがる」)。そこにペドリロが現れ、十二時になるとマンドリンを取り出して逃走の合図のセレナードを歌う。

 するとコンスタンツェが窓から顔を出すので、ペドリロはをかけて彼女を外に連れ出す。そしてベルモンテと一緒に船が待つ浜へ行くように言う。続いてブロンテを連れ出すために、彼女の部屋の窓に梯子をかけて中に入る。

 その時、酔いから目を覚ましたオスミンが見回りに来て、梯子がかかっているのに気づく。オスミンが見張りの人たちを起こすので、階段から降りて来たペドリロとブロンテは捕まってしまう。ベルモンテとコンスタンツェも衛兵に捕らえられて連れ戻されて来る。全員一網打尽になったので勝ち誇ったオスミンは、意気揚々と四人を太守の前に引っ張って行く。

 怒った太守はコンスタンツェを責める。そこでベルモンテは、私はスペインの名門ロスタドスの息子だと名乗り、身代金を払う用意があるので許して欲しいと願い出るが、逆にベルモンテの父が太守の仇敵(きゅうてき)であることが判明してしまう。太守は四人の処分を考えるためにオスミンを連れて別室に引っ込むと、ベルモンテは自分のためにコンスタンツェまで死なせてしまう運命を嘆くが、すでに覚悟を決めたコンスタンツェはともに死んで行く幸福を歌う。

 しばらくして戻った太守は意外にも、憎しみに対して憎しみをもって報いず、自由にして帰国を許すと言う。そしてベルモンテに、父親をしのぐ人間になるように諭す。太守はさらにブロンテとペドリロも許すので、一人不満のオスミンは腹の虫が収まらず憤慨したままでいる。海辺にはコンスタンツェたちを迎える船が姿を現し、皆が船に乗り込む。全員が太守の徳をたたえる中に幕になる。


Reference Materials

初演
1782
年7月16日 ブルク劇場(ウィーン)

原作
クリストフ・フリードリヒ・ブレツナー/ジングシュピール用台本「ベルモンテとコンスタンツェ、または後宮からの逃走」からゴットリープ・シュテファニーが自由に改編

台本
同上/ドイツ語

演奏時間
第1幕34分、第2幕46分、第3幕87分(ショルティ盤CDによる)

参考CD
●グルベローヴァ、バトル、ヴィンベルイ、ツェドニク、タルヴェラ/ショルティ指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D

参考DVD
●シェーファー、ハルテリウス、グローヴス、ティラウィ、ハヴラタ/ミンコフスキ指揮/ザルツブルク・モーツァルテウム管、ウィーン国立歌劇場唱(NMC

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  







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