羊飼いの王様[全2幕]モーツァルト作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ドイツオペラ

W. A. Mozart, Il Re Pastore 1775

羊飼いの王様[全2幕]モーツァルト作曲


❖登場人物❖

アミンタ(S) エリーザ(S) タミーリ(S) アジェーノレ(T) アレッサンドロ大王(T)

❖概説❖

 1751年に書かれたメスタジオの台本は、これまでに10人以上の作曲家によって祝典音楽が作られている。モーツァルトのこの作品は、ウィーンのマクシミリアン大公のザルツブルク訪問を歓迎する祝宴のために作曲されたもので、わずか四、五週間の間に完成した。牧歌劇と言われるように美しい抒情をたたえた祝典劇になっている。「牧人の王」という題名で呼ばれることがある。

  

第一幕

 

 シドンの町に近い広々とした心地よい田園。アミンタはシドンの正統な王位継承者アブドローニモであるにも拘(かかわ)らず、父王が亡くなってから羊飼いに身をやつしている。彼はカドモの名門の血を引く羊飼いの娘エリーザと恋仲であり、川の流れに恋人への想いを託す。

 そこに美しいエリーザが現れる。アミンタはアレッサンドロ大王率いるマケドニアの軍隊が近くを蹂躙(じゅうりん)しているから気をつけるようエリーザに言うが、彼女は、大王は正義の味方で、シドンを暴君から解放してシドンの真の王の後継者を探していると語る。

 アミンタは名門の娘エリーザを貧しい羊飼いの小屋に迎えねばならないのは忍びないと嘆くが、エリーザはその貧乏も愛していると言うと(「森へ、牧場へ、泉のほとりへ」)、母に結婚の許可を得るために立ち去る。アミンタは喜びの気持ちを隠し切れないでいる(「穏やかな空気と晴れた日々」)。

 そこにアレッサンドロ大王が協力者であるシドンの貴族アジェーノレを伴って現れ、アミンタに話しかける。大王はアミンタと話をしているうちに、その話しぶりから彼が高貴の出であることを見抜き、彼が去った後、一人彼がシドンの王家の継承者であることを確信して歌う(「太陽を覆う雲」)。

 大王が従者たちと立ち去り、アジェーノレも後に続こうとした時、羊飼いの女タミーリに呼び止められる。彼女は大王に攻められて自殺したシドンの前王ストラネートの娘の仮の姿である。アジェーノレとは以前からの恋仲であったが、戦乱で別れ別れになってしまい、今は親友エリーザの家にかくまってもらっている。

 タミーリとアジェーノレの二人は変わらぬ愛を確かめ合うと、アジェーノレは大王の後を追う。その後ろ姿を見送ったタミーリは、彼の真情を知って神に感謝の気持ちを捧げて立ち去る(「激しかった嵐の日々」)。

 そこへ両親から結婚の許可を得たエリーザが戻って来て、アミンタを探す。彼女が現れたアミンタを父親のもとに連れて行こうとすると、近衛兵や従者を従えたアジェーノレが現われてアミンタを呼び止める。

 アジェーノレはうやうやしくアミンタに挨拶すると、アミンタこそシドンの王の継承者アブドローニモに間違いないと確信して、大王が待っていると告げる。エリーザは恋人を失う悲しみを堪えて、健気(けなげ)にも彼に大王のところに行くように言うが、アミンタはまずエリーザの父親に会ってから大王のところに出向くと言い、自分は王になろうがなるまいが君の忠実な羊飼いだとエリーザに答える。

第二幕

 

 第一場 アレッサンドロ大王の天幕。エリーザが恋人アミンタに会いにやって来るが、アジェーノレによって面会を許されない。エリーザは悲しみと怒りを表して帰る(「ひどい人ね!」)。その後を追うようにしてアミンタが姿を現すが、アジェーノレにたしなめられる。やがて会議を終えた大王が天幕から出て来て、アミンタに早くみすぼらしい羊飼いの衣装を脱ぎ捨てて王の衣装を着けるよう命じる。

 アミンタが着替えに去ると、大王はアジェーノレに前王の娘タミーリの消息を尋ねる。アジェーノレから、実は彼女が生きていると聞かされた大王は、ではアミンタとタミーリを結婚させて旧王両家の和解と統合を計ろうと言い出す。

 タミーリの恋人であるアジェーノレは、彼女を自分の妻にしたいと大王に申し出る機会を失ってがっかりする。大王は、二人を結婚させて王位を与える自分の仁徳を自ら誇らしげにたたえる(「たとえ戦いに勝っても」)。

 第二場 岩山の中の巨大な洞穴の中。玉座かエリーザかの二者択一を迫られたアミンタは悩む。返答の時限が来て、アジェーノレがアミンタの意志を確認するために迎えに来る。

 アミンタはある決心を固めると、大王のもとに向かう(「彼女を愛そう、ともに生きよう」)。アジェーノレ一人のところにエリーザが現れる。そしてアジェーノレからアミンタとタミーリの結婚の噂が本当であると知らされ、涙ながらに立ち去る。

 入れ替わりにタミーリがやって来て、王国のために自分を捨ててアミンタの妃にすることに同意したアジェーノレを責める。そして自分の結婚式に出席するように言う。アジェーノレは、一人自分の弱い立場を嘆く(「僕のような目に会った者だけが」)。

 第三場 シドンのヘラクレス神殿前の広場。アレッサンドロ大王が一同を率いて現れ、神に祈る。タミーリは大王にアジェーノレへの愛を訴え出るので、大王はその貞淑さに感心する。そこにエリーザも現れて、アミンタを奪わないでと大王に直訴する。次いでアミンタが羊飼いの服装のまま王衣を携えて現れて王衣を大王に返し、自分は元の羊飼いに戻るので、タミーリに王国を与えるよう願い出る。

 アジェーノレは喜び、大王は彼らの純真な愛に心を打たれる。そして前言を取り消し、改めてアミンタにはエリーザを妻として王国を与え、タミーリとアジェーノレの結婚も認めて別の王国を与えることを約束する。人々は大王の善政をたたえ、二組の恋人を祝福する。



Reference Materials

初演

1775年4月23日 ザルツブルク宮廷

台本
ピエトロ・メスタジオ/イタリア語

演奏時間
第1幕59分、第2幕59分(ハーガー盤CDによる)

参考CD
●マティス、オジェー、ガザリアン、シュライアー、クレン/ハーガー指揮/ザルツブルク・モーツァルテウム管(DG)
●サッカ、マレー、メイ、ニールセン、シェーファー/アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(T)

参考DVD
●スパイサー、ダッシュ、ペーターゼン/ヘンゲルブロック指揮/バルタザール=ノイマン・アンサンブル(DG


ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  







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