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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ドイツオペラ
W. A. Mozart, La Finta Giardiniera 1774
にせの女庭師(恋の花つくり)[全3幕]モーツァルト作曲
❖登場人物❖
市長ドン・アンキーゼ(T) サンドリーナ(侯爵令嬢ヴィオランテ・オネスティ)(S)
ベルフィオーレ伯爵(T) アルミンダ(S) 騎士ラミーロ(Ms) セルペッタ(S)
ナルド(ロベルト)(Br)
❖概説❖
モーツァルト二作目のオペラ・ブッファで、バイエルン選帝侯マクシミリアン三世の依頼で作曲された。初稿のイタリア語版の第一幕の自筆稿は失われてしまい、1780年のドイツ語訳のリブレットから復元されている。
現在はイタリア語のオペラ・ブッファ版と、ドイツ語のジングシュピール版とがともに上演される。なお、「恋の花つくり」はドイツ語版題名の日本語訳である。
幕が上がる前の物語
ベルフィオーレ伯爵は、恋人の侯爵令嬢ヴィオランテとの恋のもつれから彼女を刺し殺して逃亡した。ところが一命を取り止めた彼女は、なお愛している伯爵を探すためにサンドリーナと名を変え、ラゴネロの市長ドン・アンキーゼの女庭師として雇われている。彼女の召使ロベルトも、ナルドと名乗ってやはり市長の従者となっている。好色の市長は以前はセルペッタという女中に熱中していたが、今はサンドリーナに夢中である。一方、市長の姪アルミンダは恋人の騎士ラミーロを捨てて、伯爵と結婚しようとしている。
第一幕
第一場 市長の家の美しい庭園。市長、ラミーロ、サンドリーナたちがアルミンダの到着を待ちながら、それぞれの気持ちを歌う。ラミーロは市長に失恋の悩みを訴えるが(「もし小鳥が逃げたら」)、市長は人々を遠ざけると、サンドリーナを口説きにかかる。
しかし彼女は取り合わずに、悩みをナルドに打ち明けると(「私たち哀れな女たち」)、この家を出て行かなければならないと話す。一方ナルドは、セルペッタを何とかものにしようと意気込んで立ち去る(「鎚は火の熱で鉄は打ち延ばし」)。
第二場 庭園の回廊。アルミンダが到着し、はじめは花婿の伯爵がいないのに腹を立てるが、現れた伯爵の優しい言葉にたちまち機嫌を直す(「何と美しく、何と愛らしい」)。そこにやって来たセルペッタは自分の若さと魅力をひけらかし(「私がひと目見ただけで」)、中年のナルドに当てつける。
第三場 架空庭園。一人孤独のしさを嘆くサンドリーナは(「雉鳩は嘆く」)、アルミンダから彼女の婚約者が伯爵だと聞かされて卒倒する。駆けつけた伯爵も、サンドリーナが死んだとばかり思っていたヴィオランテだと知ってびっくりする。
集まった人々は伯爵が女庭師を抱きかかえているのを見て大騒ぎになるが、サンドリーナは身分を明かさないまま、大混乱の中に幕となる。
第二幕
第一場 市長の家の前の広場。アルミンダは婚約者である伯爵の裏切りに怒って立ち去る(「恥知らずの貴方を罰してやりたい」)。入れ違いにナルドがやって来て、しきりにセルペッタの機嫌を取り結ぼうとするので(「イタリア式のやり方では」)、セルペッタも少しずつその気になって来る。
伯爵はサンドリーナに許しを請おうとするが、過去に裏切られたサンドリーナは、あくまでも人違いだと言い張るので、伯爵は困惑する。そして彼女の手を握ろうとして、やって来た市長の手を誤って握ってしまう。
伯爵が逃げ出した後、今度は市長が求婚するので、サンドリーナは不幸な気持ちを訴える(「この胸の底でひとつの声が」)。そこにラミーロが殺人罪で伯爵に逮捕状が出ているとの知らせを持って来るので、市長は姪の結婚式は中止だと息まく。ラミーロも、これでアルミンダの心も戻って来るだろうと密かに喜ぶ(「愛の優しい道連れ」)。
第二場 市長の家の一室。市長の尋問に、伯爵はついにヴィオランテ殺害の犯人であると白状する。そこにサンドリーナが現れ、自らヴィオランテであると明かし、伯爵の罪を許す。しかし、二人だけになると、サンドリーナは伯爵を救うためにヴィオランテだと嘘をついただけだと言って立ち去るので、伯爵の頭は混乱する(「ここで聞いてください!…もう足が動かない」)。そこにセルペッタが入って来てサンドリーナが逃亡したことを報告し、女の身の処し方について述べる(「この世で楽しみたい者は」)。
第三場 古代ローマの廃墟がある森の中。荒涼とした野原をさまようサンドリーナは孤独の身を嘆き(「ああ、待って、ひどい人」)、恐ろしさに洞窟に身を隠す。
ナルドから話を聞いた伯爵は、彼の案内でサンドリーナを探しに来る。市長、アルミンダ、セルペッタも後を追ってやって来る。暗闇の中で、思惑を持った人々は手探りで相手の手を取り合うが、松明を持ったラミーロが到着するに至り、相手を取り違えていることが判明して大騒ぎになる。洞窟から出て来たサンドリーナは、あまりの騒ぎに気がふれて伯爵とともに幻想を夢見る。
第三幕
第一場 市長の家の中庭。ナルドが主人たちの狂気ぶりについて語っている。現れたサンドリーナと伯爵もまだ狂ったままである。この様子に市長は、姪のアルミンダにラミーロとの結婚を勧める。ラミーロも再びアルミンダに想いのたけを訴えるが、彼女に冷たく断られるので怒ってしまう(「他の男に抱かれるがよい」)。
第二場 市長の家の美しい庭園。庭園で眠っていたサンドリーナと伯爵は、目を覚ますと徐々に正気を取り戻す。サンドリーナは伯爵に花嫁のもとに行くように言い、自分も市長の妻になると言うが、二人の足は止まってしっかりと抱き合う。アルミンダとラミーロ、セルペッタとナルドもめでたく結ばれる。一人市長は振られるが、全員愛をたたえて幕となる。
Reference Materials
初演
1775年1月13日 プラネルガッセの会議所(ミュンヘン)
台本
ジュゼッペ・ペトロセッリーニ/イタリア語(ドイツ語版訳はフランツ・クサヴァー・シュティールレ)
演奏時間
第1幕85分、第2幕62分、第3幕40分
(アーノンクール盤CDによる)
参考CD
●グルベローヴァ、アップショウ、マルジョーノ、モーザー、ハイルマン/アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(T)
参考DVD
●グレアム=ホール、ラインブレヒト、エインスリー、ジャンス/ボルトン指揮/ザルツブルク・モーツァルテウム管(DG)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止