W. A. Mozart, Bastien und Bastienne 1768

バスティアンとバスティエンヌ［１幕］モーツァルト作曲

❖概説❖

　12歳のモーツァルトが作曲した最初期のオペラで、ジングシュピールの形で書かれている。皇帝ヨーゼフ二世の依頼で作曲された「みてくれの馬鹿娘」が、さまざまな妨害でなかなか上演されずに失望していたモーツァルトを慰めるために、ウィーンの医師・メスマー氏が依頼した。牧歌調の愛らしい作品である。

　野原を見渡せる村はずれ。羊飼いの娘バスティエンヌは恋人バスティアンに捨てられたと思い悩んで嘆き（「私のいとしい人は私を捨てた」）、羊の群れだけが慰めなので牧場へ行こうとする（「今は牧場へ行って」）。

　そこにバグパイプを吹きながら魔法使いの老人コラスが通りかかる。コラスはただちにバスティエンヌの悩みを読み取る（「優しい女の子が尋ねることは」）。彼女は魔法使いなら魔法を使って私を悩みから救ってと頼む。お金はないからその報酬は自分の耳飾りよと言うバスティエンヌに対して、コラスはキスしてくれればそれでよいと答える。

　しかしバスティエンヌは、キスはバスティアンだけのもので、彼と結婚できなければ死んでしまいたいと言うので、その真情にほだされたコラスは、恋には駆け引きが必要だと言い、恋人を取り戻すにはわざとつれなくして見せるのが良いと男性操縦法を教える。

　バスティエンヌがお礼を言って立ち去るのを見送ったコラスは、彼女の純真さに感心している。そこにバスティアンがやって来る。バスティアンも、コラスに占ってもらったお陰で迷いも取れて、黄金より大切なバスティエンヌが自分のところへ戻って来たとコラスに礼を言う（「あなたに厚くお礼を」）。するとコラスはもう手遅れで、自分がかけた魔法でバスティエンヌは別の男を好きになってしまったと言う。バスティアンは、あなたは嘘を言っているのだろう、そんなことはあり得ないと言い張る（「ああ！あなたは嘘をついている」）。しかしコラスが真顔で、彼女は金持ちで礼儀正しい町の男のところへ行ってしまったと言う。さすがにバスティアンも心配になって落ち着きを失い、コラスの魔法で何とか再び彼女を取り戻す方法はないかと相談を持ちかける。そこでコラスは「ディッギー、ダッギー、シュリー、ムリー…」と奇妙な呪文を唱え、バスティアンの運勢を占う。そして、彼女を取り戻すには彼女を悲しませてはいけないと諭し、ここにいれば彼女に会えると言い残して立ち去る。

　バスティアンが一人残ってバスティエンヌへの固い愛を誓っていると（「いとしい人のきれいな頬を」）、彼女が現れる。しかし彼女はコラスに教えられた通りわざとバスティアンに冷たく当たり、町へ行ってしまうと言う。はじめは優しい言葉をかけてバスティエンヌに許しを請うていたバスティアンも次第に怒り出し、意地の張り合いになって長い口げんかが続く。しかし、もともと愛し合っている二人だけに、バスティエンヌが「バスティアン」と呼びかけたのをきっかけに、二人の心は溶けて互いに抱き合う。そして手を取り合って心変わりのしない永遠の愛を確かめ合う。

　そこに羊飼いの男女たちと一緒にコラスが現れる。彼は嵐と雨が降って本当の幸せが来たではないかと言い、これこそわしの魔法の力のお陰だと二人の幸福を祝福する。

　バスティアンとバスティエンヌも、コラスの魔法の力が奇跡を行ってくれたと彼に礼を言い、コラスに結婚の媒酌を頼む。喜んでそれを引き受けたコラスを囲み、バスティアンとバスティエンヌの三人で喜びの三重唱となって幕となる。