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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
ドイツオペラ
F. J. Haydn, Il Mondo della Luna 1777
月の世界[全3幕]ハイドン作曲
❖登場人物❖
ブォナフェーデ(Br) エックリーティコ(T) リゼッタ(S) フラミーニア(S) クラリーチェ(S) エルンスト(T) チェッコ(T)
❖概説❖
多作家であったハイドンは、弦楽四重奏曲や交響曲よりも以前からオペラを書いている。失われた作品を含めると、少なくても25曲の作品を残していて、初期の作品はウィーンでも好評を博している。
この作品は、ハイドンがエステルハージ侯家の楽長時代に作曲されたオペラ・ブッファで、エステルハージ侯家の次男ニコラウス伯の結婚式の記念行事のために書かれた。なおこの台本は当時何人もの作曲家の手によってオペラ化されていて、当時宇宙に対する関心が高かったことを物語っている。
第一幕
第一場 大きな天体望遠鏡があるエックリーティコ家の屋上。月の観測に熱心なエックリーティコは天文学者を自称し、大きな天体望遠鏡を備え付けて人を騙しては喜んでいる。そこに金持ちでお人よしのブォナフェーデが現れる。実はその天体望遠鏡には人形の仕掛けがしてある。召使のリゼッタさえ自分のものにできないブォナフェーデは、望遠鏡で見た年寄りに若い娘が寄り添う男性天国の月の世界がすっかり気に入り、エックリーティコにたっぷりと礼金を払う。
入れ替わりに騎士エルンストと従者チェッコがやって来る。エルンストはブォナフェーデの娘フラミーニアを愛しているが、頑固なブォナフェーデが認めないので、エックリーティコに相談に来たのである。エックリーティコもブォナフェーデのもう一人の娘クラリーチェとの結婚を望んでいる。チェッコもリゼッタにぞっこんであると告白する。そこでエルンストが資金を出して、ブォナフェーデ家の女性たちを手に入れる策略を練る。
第二場 ブォナフェーデの家の一室。フラミーニアとクラリーチェの二人の姉妹は、頑固な父親のために自由に結婚できない境遇を嘆き、フラミーニアは恋人と結婚するためなら駆け落ちさえ辞さないと言って部屋を出て行く。フラミーニアが出て行ったところにブォナフェーデが現れるので、クラリーチェも部屋を出て行く。
ブォナフェーデは月の世界なら娘が父親にたてつくことはないのにとぼやいていると、リゼッタが入って来る。彼女に気があるブォナフェーデは、お前にもあの望遠鏡を見せてやりたいと言う。そこにエックリーティコがやって来て、月の世界の皇帝から招待されたので暇乞いをすると言う。ブォナフェーデは、自分も連れて行ってくれと頼む。
ブォナフェーデは魔法の薬を飲めば月に行けると言うエックリーティコの甘言に乗せられ、ただの酒を買わされる。酔っ払って深い眠りについた彼をエックリーティコは召使に運び出させる。娘のフラミーニアとクラリーチェは父が死んでしまったのかと思って動転するが、エックリーティコからの遺言で、二人には多額の遺産が渡されるという話を聞いて、父の人の良さに泣き笑いする。
第二幕
月の世界のような幻想的な眺めに仕掛けられたエックリーティコの家の庭。眠りから覚めたブォナフェーデは、あたりの美しい世界に驚くが、家族のことが心配になって娘の名を呼ぶ。そこに月の世界の皇帝に変装して現れたチェッコは、彼の二人の娘を招待してあると言う。ブォナフェーデは、家で見たのと似たような姿の人が月の世界にもいるのを怪訝(けげん)に思う。ブォナフェーデの抗議も空しく、皇帝のチェッコはリゼッタを自分のもとで仕えさせると言って譲らず、リゼッタはわからないままに月の世界の皇妃に就かせられる。二人の娘が機械仕掛けに乗って現れ、月語を話しながら妙ちきりんな儀式をやる。そして皇帝はフラミーニアをエルンストに、クラリーチェをエックリーティコに与えると宣言する。
皇帝と皇妃の結婚式が始まり、エックリーティコの計画はまんまと成功する。ようやくブォナフェーデは騙されたと気づいて、烈火のごとく怒り出し大騒動になる。
第三幕
エックリーティコの家の広間。全員元の衣装を着けている。かんかんになっているブォナフェーデをエルンストとエックリーティコがなだめ、エルンストは自分は男爵家の出身であると身分を明かす。チェッコもリゼッタとの仲を認めるよう求める。エックリーティコは取り上げたブォナフェーデの金庫の鍵を返す。月の世界だからこそ地上の夢が果たせたと気がついたブォナフェーデは、人間とは何であるかを考える。そして女性たちに持参金を与えて、すべてを許す。
Reference Materials
初演
1777年8月3日エステルハージ宮廷劇場
台本
カルロ・ゴルドーニ他/イタリア語
演奏時間
第1幕74分、第2幕39分、第3幕13分(ドラティ盤CDによる)
参考CD
●トリマルキ、アルヴァ、フォン・シュターデ、オージェ、マティス、ヴァレンティーニ・テラーニ/ドラティ指揮/ローザンヌ室内管(D)
参考DVD
●ヘンシェル、リヒター、ジュノー、ラントシャマー、ボーモン/アーノンクール指揮/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(C Major)