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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
イタリアオペラ
G. Donizetti, La Fille du Régiment 1839~40
連隊の娘[全2幕] ドニゼッティ作曲
❖登場人物❖
マリー(S) トニオ(T) ベルケンフィールド侯爵夫人(Ms) ホルテンシウス(B) シュルピス(B) クラーケントルプ公爵夫人(Ms)他
❖概説❖
第一幕
ナポレオン戦争時代のスイス・チロル地方のある村はずれ。村人たちは遠くで大砲の音が聞こえるので、フランス軍の敵兵がやって来るのではないかと心配してマリア像に祈っている。
人々の中には、旅行中に戦いが始まったために旅を続けられなくなったベルケンフィールド侯爵夫人がいる。恐怖におののく侯爵夫人は執事ホルテンシウスに勇気づけられながら戦況を見守っている。一人の農夫がフランス軍は退却したと告げに走って来るので、皆が喜んでいる。その時突然フランス軍曹シュルピスが現れるので、村人たちは驚いて逃げ去り、侯爵夫人は傍らの小屋に隠れる。
そこにラ・ラ・ラという朗らかな歌声とともに軍服姿のマリーが現れる。彼女は以前戦場で軍曹に拾われて連隊の中で育てられ、今ではアイドルとしてフランス軍第二十一連隊の酒保で働いている。軍曹とマリーの二人はそのようなマリーの身の上を歌う(「戦場で生まれ」)。軍曹はマリーが浮かない顔をしているのを訝り、その理由を訊ねると、命を救ってくれた若者に恋をしているのだと言う。
その時フランス陣営の近くを、マリーを探してうろついていたスイスの青年トニオが、スパイと疑われて小突かれながら連行されて来る。その姿を見たマリーは、彼こそ自分が崖から落ちたところを助けてくれた命の恩人だと言って助けを請う。
その訴えに兵士たちもトニオを赦して仲間に入れる。トニオを歓迎する祝宴が始まり、軍曹はマリーに歌を所望するので、彼女は喜んで歌う(連隊の歌「皆さま、ご存知?」)。点呼の合図が聞こえ、兵士たちは軍曹に率いられて立ち去るが、すぐに戻ってきたトニオはマリーに恋を告白して二人は抱き合う(「えっ!私を愛しているですって?この優しい告白が」)。
そこに軍曹と侯爵夫人、ホルテンシウスが現れる。侯爵夫人が軍曹に語るところによると、マリーは侯爵夫人の妹とフランス将校ロベール大尉との間にできた子であることが明らかにされる。侯爵夫人は、粗野なマリーに侯爵家の娘としての教育を受けさせるためにパリに連れて行くことにする。
兵士たちが戻って来るが、その中にはフランス兵のしるしをつけたトニオもいる。皆はトニオがマリーと結婚するのを惜しむが、彼の訴えによって皆はしぶしぶ同意する(「ああ友よ!何と楽しい日」)。軍曹が戻ってきて、マリーはパリに行くために連隊から去らねばならなくなったことが告げられるので、一同はがっかりする。マリーも皆に別れを告げ(「さようなら」)、今まで育ててくれた礼を述べる。マリーを愛するが故に入隊したトニオは、彼女についてパリに行こうとするが、兵士になってしまってはそれも叶わず、二人は一日だけに終わった愛を悲しむ。侯爵夫人に促されて、マリーは兵士たちの捧げ銃に見送られて一同に別れを告げる。
第二幕
チロル舞曲風の間奏曲で幕が開くと、ベルケンフィールド侯爵夫人邸の客間。前幕からしばらく時が経っている。侯爵夫人は、マリーを長い伝統を誇るベルケンフィールド家の跡継ぎとして、ドイツ第一のクラーケントルプ公爵家に嫁がせようと考えて、彼女の躾に余念がない。そして負傷して退役したシュルピス軍曹は、その人柄とマリーの信頼が厚いことを買われて侯爵家の執事に登用されている。侯爵夫人はマリーがこの結婚を承諾するよう軍曹にその説得を頼んでいるが、マリーがそれに乗り気ではなく、習いごとも嫌がっていることを知っている軍曹は彼女に同情している。侯爵夫人はピアノの前に座って上品な歌のレッスンをしようとするが、笑いをこらえていた軍曹が忍び笑いをすると、マリーもつられて二人で勇ましい「連隊の歌」を声を合わせて歌う。何度やっても同じことで、しまいには侯爵夫人も二人の陽気な歌につり込まれて一緒に歌ってしまう。レッスンをあきらめた侯爵夫人は、すてきな公爵夫人になるよう諭すと部屋を出て行くので、マリーは一人以前の懐かしい軍隊生活の思い出にふける(「身分も富も」)。
そこに勇ましい太鼓の音が聞こえ、戦功で隊長に昇進したトニオを先頭に、第二十一連隊の兵士たちがやって来る。トニオ、軍曹、マリーの三人は久しぶりの再会を喜び合い、皆で大騒ぎになる。その騒ぎに出てきた侯爵夫人に向かって、トニオは恋人マリーとの結婚の許可を求めるが、侯爵夫人はそれを拒絶して皆に出て行くよう言う。そして軍曹を呼ぶと、侯爵夫人はマリーについての秘められた真実について語る。それによれば、彼女は体面を守るためにこれまで秘密にしていたが、マリーは本当は自分とロベール大尉との間の娘であることを告白する。真実を告げられた軍曹は、彼女の意向に沿ったマリーの結婚に協力を約束する。そこにクラーケントルプ公爵夫人と客人の到着が告げられる。公証人を連れて来た公爵夫人は、マリーがいないのに立腹する。遅れて現れたマリーは実の母と知らされた侯爵夫人に感激して抱きつき、母の意向に沿って婚約証書に署名することを承諾する。その時、外が急に騒がしくなり、兵士たちを引き連れたトニオが入って来て、マリーの署名をおしとどめようとする。
マリーは自分が育った身の上を語るので、客人たちは彼女の正直さに感心する。そしてこれまでの皆の行為に感謝しつつも、彼女は婚約証書に署名しようとする。するとマリーの本心にほだされた侯爵夫人は、彼女にトニオとの結婚を許す。公爵夫人は怒って立ち去り、一同は「フランス万歳」と叫ぶ。
Reference Materials
初演
1840年2月11日 パリ・オペラ・コミック座
台本
ジャン・フランソワ・バイヤールとジュール・アンリ・ヴェルノア(サン=ジョルジュ侯の筆名)の共作/フランス語
演奏時間
第1幕69分、第2幕42分(カンパネッラ盤CDによる)
参考CD
●アンダーソン、トランポン、クラウス、シーザン/カンパネッラ指揮/パリ・オペラ座管・唱(EMI)
参考DVD
●デヴィーア、ケリー、プラティコ/レンゼッティ指揮/ミラノ・スカラ座管・唱(DEN)