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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より
イタリアオペラ
G. Spontini, La Vestale 1807
ラ・ヴェスターレ(ヴェスタの巫女)[全3幕] スポンティーニ作曲
❖登場人物❖
リチーニョ(T) ジュリア(S) チンナ(T) 祭司長(B) 巫女の長(Ms) 執政官(B)
❖概説❖
このオペラは彼のパリ時代の傑作であり、第二次大戦後マリア・カラスがイタリア語版で積極的に取り上げて広く知られるようになった。
第一幕
ヴェスタの神殿の夜明け。ローマの将軍リチーニョは、かつての恋人で今は巫女になってしまったジュリアを神殿から取り戻せないかと、軍団長である友人のチンナに相談する。そしてついに彼女を神殿から奪取することを決意する。神殿からは巫女たちが現れて、夜明けの祈りを捧げてまた神殿に戻って行く。
巫女の長はジュリアに一人残るよう言い、彼女に恋は魔物だと説く。そして、今夜から聖火の不寝の守り神となることと、明日凱旋する将軍リチーニョに冠を授ける任務を命じる。ジュリアは長い間会っていなかったリチーニョに会うことになるので、期待と不安が交錯する(「もうじきあなたにお会いできる」)。
朝になって凱旋の行進が始まり、冠授与の儀式が始まる。リチーニョは祭壇に上ってジュリアから冠を受け取る時、彼女の耳許に「今夜一緒に逃げよう」とそっとささやく。その言葉を聞いて、平静を装って授与の儀式を執り行おうとしていたジュリアもさすがに一瞬動揺する。儀式はそのまま続いて、祭司長はカンピドリオの丘で生贄の儀式を行うと宣言する。
第二幕
ヴェスタの神殿の中。巫女の長はジュリアに黄金の火かき棒を与えて、永遠に聖火を消さないよう命じて立ち去る。夜も更けて一人聖火の脇に立っているジュリアは、神に対する神聖な務めとリチーニョに対する恋との狭間に心が揺れて悶え苦しむ(「無慈悲な女神よ」)。
そこにリチーニョが現れて、すぐにこの神殿から逃げ出そうと言うので、ジュリアはとうとうリチーニョの誘惑に負ける。すると、今まで赤々と燃えていた聖火が突然消えてしまう。ジュリアはこれは神の怒りに違いないと思い、リチーニョまで禍に巻き込むことを恐れて、ここから逃げられないと言う。
その時チンナがやって来て、聖火が消えたので民衆が騒ぎ出したと伝える。リチーニョはジュリアに早く逃げようと言うが、彼女は一人残ることを決意して彼に同意しない。そこに祭司長が姿を現すので、チンナはリチーニョをジュリアから強引に引き離して逃げ去る。
一人残ったジュリアを祭司長は厳しく問い詰め、恋人の名を聞き出そうとするが、彼女は口を割らずに静かに神に祈る(「ああ、不幸な人々を守護する女神」)。怒った祭司長は彼女の身から巫女の聖衣を剥ぎ取る。神殿には巫女たちの怒りの声が充満する。
第三幕
生き埋めの墓のある丘。恋人ジュリアを失ったリチーニョが嘆いているとチンナがやって来て、ジュリアを救出するために兵士を集めたと報告する。祭司長が現れるので、リチーニョはジュリアを赦すよう訴えるが、祭司長は耳を貸そうとしない。リチーニョは後で力で立ち向かうと言い残して、ひとまずその場を立ち去る。
巫女たちに伴われたジュリアが生き埋めの墓に導かれて来る。彼女は巫女の長に別れを告げる。祭司長はジュリアの着けているヴェールを聖火台に運ばせ、もし聖火に火がつけば彼女は免罪が証明されると言うが、聖火に火はつかずに消えたままなので、ジュリアを墓穴に生き埋めにする刑が宣告される。ジュリアが恋人に別れを告げて生き埋めの墓に入ろうとした時(「名を口に出せぬいとしいお方よ」)、リニーチョが現れて、その恋人とは自分だと名乗り、率いて来た兵士にジュリアの救出を命じる。
兵士たちは抵抗する司祭たちと激しくもみ合うが、突然空が真っ暗になって一陣の風が吹き、それに乗って火の玉が聖火台に落ちる。するとそれはジュリアのヴェールを燃やし、再び聖火が赤々と燃える。司祭長は皆に戦いを止めるように命じ、これこそ奇蹟であると言ってジュリアの罪は赦されたと宣言し、彼女の身柄をリニーチョに引き渡す。皆はこのできごとを祝福する。
Reference Materials
初演
1807年12月16日パリ・オペラ座
台本
ヴィクトワール・ジョセフ・エティエンヌ・ド・ジュイ/フランス語
演奏時間
第1幕73分 第2幕37分 第3幕34分(下記CDによる)
参考CD
● カラス、コレッリ、スティニャーニ、ザッカリア/ヴォットー指揮/ミラノ・スカラ座管・唱(IDIS)
ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止