
ストラディヴァリの生涯
ストラディヴァアリの生涯、特にその幼年時代は全くの謎に包まれている。
多くの研究家がクレモナの古文書などを調べてみても、その部分だけが忽然と失われているという。
彼の父アレッサンドロ・ストラディヴァリは生まれもクレモナで1602年、母はアンナ・モリニ。1622年8月30日に結婚という古文書だけが残されている。
なお彼の家系は、11世紀からの記録に残っており富裕階級であった事も事実らしい。
ヤロベックの記録 ーヤロベックが書き残した有名な「イタリアン・ヴァイオリン」という部厚い本がある。
その中で、彼はストラディヴァリに関して次の通りに記述している。 ーストラディヴァリの作った楽器は、イタリアの習慣にしたがって、ストラディヴァリウスとよぶ。ストラディヴァリは1640年から1644年の間に生まれ、最後の作品のラベルが1737年であるから、少なくとも93歳、一説には97歳まで生きたといわれている。
まことに勤勉無比の人物で奥さんも2人もらい、子供も合計11人、(これには後で述べる異説もある)大金持でしかも精力家であった。その永い生涯の間に作られた楽器の数は、子供の数と同様、誠に多く約3000本に及ぶと伝えられている。
子供は64歳まで作り続けたが、ヴァイオリンは、彼の死亡した年の1737年のラベルのものが3本残されている事実から考えて、その
生涯の最後まで製作の手を止めたことがないことになる。仕事にも熱心、家庭サービスにも懸命、真に男の鑑のような人物であった。
現在残っている彼の作品は次の通りである。
☆ヴァイオリン 540本
☆ヴィオラ 12本
☆チェロ 50本
☆ダブルベース 5本
☆マンドリン 3本
☆ヴィオラ・ダ・ガンバ
☆バス・ヴィオール
☆ギター☆パンドリナ☆チター☆ポチェット 各1本 合計616本
この合計でいくと行方不明の楽器が少なくとも2000本以上あるわけである。
ストラディヴァリは二コロ・アマティの徒弟で、1690年まではアマティの楽器を作っている。その頃はアマティのラベルのつけられた楽器もあったであろう。しかし、彼は1670年から自分の名前による楽器を作り出したであろうと想像されている。そして1699年までは「口ング・パターン」とよばれる形の楽器を作っており、その後、次第にその形が変わり、1700年から1728年にかけての作品が最も優れたものであると伝えられている。なお1729年以後の楽器は、老齢のため、急激に品質が低下している。(これにも何かと異説が多い。)
彼は、一生の間、自らの作り出すヴァイオリンの寸法や形を変えていったといわれている。多分、その永い生涯で常に最高の楽器への理想を追求し続けたのであろう。
(注) ストラディヴァリについてはロンドンのヒル商会が残した『アントニオ・ストラディヴァリ、その生涯と作品』という、実に克明に調査された研究書が出版されているし、アメリカではアーネスト・N・ドーリングの『何本のストラディヴァリウスが残されているか? 偉大なマスターの残した遺産』という調査的な本も出されているし、1972年にはニューヨークで『アントニオ・ストラディヴァリのヴァイオリンの研究書』という分厚い専門書も出版され、現在では数え切れぬほどの研究書が残されている。
(注) 行方不明の楽器の数については確実なものではなく、長年月の問の政争や災害、改造、修理の際の失敗なども少なくないらしく、盗難だけでも、19世紀の初めには10数本も記録されており、なお旧ソ連その他の社会主義国家の財宝となった楽器の調査は殆ど不可能である。ヒル商会の調査には、ヴァイオリン属の推定製作本数が、1116本、現在記録されているのが604本であるから、行方不明は514本であるという。
なお、ウィリアムーヘンリーの事典では1400本となっている。
(注) さきに述べた1945年版のドーリングの研究書では、ストラディヴァリの現存の楽器は、アメリカが207本、その他の国の合計が185本、所属不明なものなど合計509本とある。
なお、ハーバート・グッドカインドのイコノグラフィーによれば、ヴァイオリンが630本、ヴィオラが15本、チェロが60本、合計705本となっている。さらに、ウーリッツァーの調査では550本と記録されている。
(注) 1972年にニューヨークで出版された研究書では、世界中のストラディヴァリは、1660年代から1737年までに作られた総数で、ヴァイオリンは620本、ヴィオラが18本、チェロは63本、その他が8本、結局709本と記録されている。これに長男のフランチェスコ・ストラディヴァリの作品4本と次男のオモボノ・ストラディヴァリの作品12本を加えれば、その総数は725本となる。
(注) ちなみにわが国に現存すると云われているストラディヴァリウスは、総数にして50本以上といわれている。
(注) ストラディヴァリの生涯のヴァイオリンの製作数の記録は、信じられないほど多い。しかし、彼には錚々たる優れた弟子がいて手伝ったに違いない。
誰の手助けもなしに、一生の間に作り出したヴァイオリンの数の世界のレコード保持者としてはジョージークラスケ(1795〜1888年)がいる。
彼はイギリスのメーカーで、有名なパガニーニの楽器を修理したことなど知られているが、ストラディヴァリと同じく、93才まで生き、次に挙げる通りの驚異的な数のヴァイオリン属の諸楽器を製作したと記録されている。
ヴァイオリン 2050本
ヴィオラ 300本
チェロ 250本
ダブルベース 20本
合計 2620本
楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止
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