世界的な名声を勝ち得た名器とその系譜
楽器を選択する際の条件
あるバイオリンの専門書に、楽器を選択する際の条件に、次の三項目が挙げられている。
- 、その美しさ。
- 、そのメーカー。
- 、その音の良さ。
バイオリンとピアノではいささかその性格が違うように思えるが、現在の耐久消費財的なピアノと異って、音の手作りの楽器は驚くほど美しい一種の芸術品であった。そのため、やはりこの選択の条件は適用されるであろう。
これらの歴史的なピアノは、入手した国々の専門家によって完全に調整されているため、ショパンやリストの時代の優雅な音色を再現してくれる。
その音色を文章で表現することは不可能であるが、それは次の古い詩を想い起させる。
ぴ あ の ベルレーヌ
永井荷風訳
しなやかな手にふるるピアノ
おぼろに染まる薄薔薇色の夕に輝く。
かすかなる翼のひびき力なくして快き
すたれし歌の一節は
たゆたひつつも恐る恐る
美しき人の移香こめし化粧の間にさまよふ。
ああゆるやかに我身をゆする眠りの歌、
このやさしき唄の節、何をか我に思へとや。
一節毎に繰返す聞えぬ程のREFRAINは
何をかわれに求むるよ。
聴かんとすれば聴く間もなくその歌声は
小庭のかたに消えて行く
細目にあけし窓のすきまより。
白黒の写真ではこれらのピアノの優雅さを示すことができないが、弾いて見れば、レコードが存在していなかった、ショパン、シューマン、リスト、ルビンシュタイン、ドビュッシーおよびラベルなどの時代の華やかで高貴な音色を現在によみがえらすことができる。
P125
改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止▶︎▶︎▶︎
▷▷▷楽器の事典ピアノ 目次