世界的な名声を勝ち得た名器とその系譜
バイオリンとピアノの収集家
諸楽器の代表であるバイオリンとピアノの名器については、世界各国の博物館や音楽学校は別として、個人的に、ホビーとして収集している人びとも少なくない。
特に、バイオリン属については、その形が小さく、稀少性と歳月による音色の成熟および価格のコンスタントな上昇によるインフレ・ヘッジなどの理由により、十八世紀以来、各国に次々とコレクターが現われた。
商売以外の史上最大のバイオリン属の収集家は、十九世紀のロンドンで、ペンの製造で莫大な資産を築きあげたジョセフ・ジロットであった。彼の死後、社長室や倉庫の中から数え切れぬほどのイタリアのオールド・バイオリンの名器が転り出たと伝えられている。
美術品と同様に、美しくて価値のある古楽器は、世界の経済的に繁栄している国に流れ込むといわれている。
例えば、イタリアの生み出した、アマティ、ストラディバリ、ガルネリなどの名器のかずかずは、まずフランスに流れ込み、次にイギリスに移り、やがてアメリカにより買い取られ、現在はわが国にぞくぞくと輸入されて、その数はさだかではないが、二十数本に及んでいると聞く、イタリアに残されたものはクレモナの市役所の一本だけである。
バイオリンは最も収集の対象となるものであるが、この他、オルゴール、アコーディオンなどの珍しい楽器を集めている好事家もいる。
しかし、ピアノの場合、十九世紀には、いわゆる「アート・ピアノ」とよばれる美しい楽器が作られたのであるが、カサ張って置き場所がないために、わが国には個人的なコレクターが殆どいない。
ところが、珍らしい世界の美しいピアノ、しかも懐かしい昔の音をよみ返らせる、つまり実際に演奏できる楽器を数多く収集している人物がいる。
浜松ピアノセンターの吉沢孝ニ氏である。
この会社のショー・ルームは、一階にはベーゼンドルファーその他の輸入ピアノが陳列されているが、二階の広い室には、現在では殆ど見当らないフランスのエラールを始めとする、十九世紀から二十世紀にかけて作られた彫刻や絵画がほどこされた絢爛眼を奪うようなピアノが並べられている。
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