楽器の事典ピアノ 第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 12 ピアノワイヤー ピアノワイヤーの性質

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[画像]アクション ヤマハグランドC7

ピアノワイヤー

 最後に現在のピアノワイヤーについて学んでみよう。
 ピアノの弦に使用されるピアノワイヤーは特殊な鋼鉄線である。その素材としてはスウェーデンスチールのカーボンの含有量が0.88〜0.95パーセントで、マンガン、硫黄、燐その他の含有量が極めて少ないものが用いられる。最初の素材の形態は直径が7〜10ミリのスチールの棒で、これをダイスを通して引き抜いて次第に細くする。その回数は20回にもおよぶという。最初の引き抜きには超鋼鉄のダイス、次はタングステンカーバイトのダイス、最終的な細かいワイヤーの引き抜きにはダイヤモンドのダイスを使う。
 引き抜きは常温で行われるが、引き抜きの際に素材に含まれている分子と結晶体が摩擦された熱を出す。これを冷却するために油を使うが、この油はワイヤーの表面をスムースに仕上げるために役立つ。引き抜きを重ねているうちにワイヤーは次第にモロくなっていく。これを防ぐために、時々炉に入れて熱加工し、分子の配列を整える。
 なお、これを冷却する際に硬度と柔軟性が得られる。ピアノワイヤーは引き抜きを重ねて細くなればなるほどその抗張力は増大する。このようにして密度、硬度、丸さおよび直径が均一なピアノワイヤーが作り上げられるのである。
 低音部の巻線の芯線に用いられるワイヤーとしては高音部の裸線に使われるワイヤーより抗張力が弱く、その反面、平らにツブレたり曲げたりする際に割れたり折れたりしない性質のものが作られる。その理由は銅線を巻きつける際に両端で都合よく固定できなければならないからである。直径や硬度の均一さに欠陥のあるワイヤーは弦として使った場合、他の弦の音と共鳴せずにビートを発する。これを専門語でワイルドストリングと呼んでいる。

ピアノワイヤーの性質

 ピアノワイヤーは、ゴムあるいは液体のように、粘性つまりねばりけのあるものである。張力すなわちストレスを与えれば伸び、これがなくなれば元の状態に戻る。しかし、限度以上に張力を与えると元の状態に戻らないかあるいは切断してしまう。
 なお、長い間張力を掛けていると、いつの間にか伸びてしまって、元の長さに戻らなくなる。このような性質があるために、ある一定の期間内にピアノを調律しなければならない必要性が生じるのである。ステンレススチールは、錆びないために、ピアノワイヤーとして最適であるように思われる。しかし、現在の段階では抗張力と柔軟性の点において使いものにならないという。



 
改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


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