イリス[全3幕] マスカーニ作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

イタリアオペラ

P. Mascagni, Iris 1898
イリス[全3幕] マスカーニ作曲

 
❖登場人物❖

イリス(S) オオサカ(T) キョウト(Br) イリスの父親(B) ディーア(S)他


❖概説❖

 マスカーニは処女作である「カヴァレリア・ルスティカーナ」を超えるオペラを作曲することができなかったが、七作目の「イリス」は題材が日本に採られていることで、我々には興味深い。場所が吉原の女郎部屋であったり、物語の展開が荒唐無稽であったりして、共感し難い部分があるが、音楽は幻想的で美しい。


第一幕


 イリスの家の庭、富士山のふもと。前奏曲が夜の暗闇から次第に夜が明ける様子を描写する。美しい娘イリスが家の戸口に姿を現して、悪い夢を見たと語り(「私は悲しい夢を見た」)、恐ろしい夢を追い払ってくれた太陽に感謝する。彼女が人形を取りに家に入ると、彼女の話を物陰で耳にしていた吉原の芸者屋の主人キョウトと好色の若旦那オオサカが姿を現す。
 イリスを気に入ったオオサカは、彼女を誘惑して吉原の遊女として連れて来るようにキョウトに命じる。二人は策を練るために立ち去る。イリスが目の不自由な父の手を引いて家の中から出て来る。イリスが父にロザリオを手渡すと、父は親孝行なイリスを与えてくれたことを太陽に感謝する。
 遠くから楽器の音が聞こえ、村娘たちは旅芸人の一座が来たのを喜ぶ。キョウトとともに人形劇団の旅芸人に変装して戻って来たオオサカは、座長の団十郎と名乗っている。キョウトは娘ディーア、太陽の息子ヨール、娘の父親の三つの人形を取り出して一座の者に渡すと、イリスの家の庭のそばに仮設舞台をしつらえる。オオサカとキョウトの二人は、舞台の陰に隠れる。
 人形劇が始まり、ディーアは、母親が死んだことや父親が愛してくれないことを語り、遊女として売り飛ばされるくらいならば死んでしまうと訴える。すると、オオサカがヨールに変装して現れ、ディーアにセレナードを歌う(「窓は開けよ」)。それまで生け垣の陰でそっと芝居を観ていたイリスは、思わず歌につられて舞台の方に近づいてしまう。
 イリスはすっかり芝居に引き込まれていて、ディーアが死ぬと深く同情する。仮面をつけた芸者が三人出て来て、「美」「死」「吸血鬼」という踊りを踊っている間に、イリスはキョウトに口をふさがれて失神し舞台の裏に担ぎ込まれる。すると、旅芸人たちの芝居は突然終わり、キョウトとオオサカの二人はイリスをさらって逃げて行く。
 芝居が終わって、イリスの父親が彼女を呼ぶが返事がないので、皆で探すが見つからない。一人の行商人が、キョウトが書き置いた手紙とお金を見つける。手紙によって、イリスが歓楽の世界に憧れて吉原へ行ったものと誤解した父親は怒り、行商人に自分を吉原へ連れて行って欲しいと頼む。


第二幕


 吉原の豪華なキョウトの部屋。芸者が歌い踊っている。キョウトは眠っているイリスが目を覚ましはしないかと、彼女らをうるさいと追い払う。そこに優美な乗り物に乗ってオオサカがやって来る。キョウトは眠っているイリスを彼に見せると、彼女を気に入っているオオサカに高く売りつけようとして、彼女にたくさんの贈り物をするように勧める。
 しばらくして目を覚ましたイリスは、あまりの別世界にここがどこだかわからず、ディーアの死を思い出して、天国かとも思う。それなら何でもできるはずだと、三味線を弾いたり絵を描いたりしようとするが、うまく行かずに泣き崩れる。
 そこにキョウトがオオサカを連れて来る。オオサカはたくさんの着物や贈り物をイリスに与え、優しく語りかける。イリスはそれが昨日の人形劇のヨールの声と同じなのに気づいて、その甘い声に彼を “太陽の子” と呼んで好意を持つが、やがてオオサカが自分の本当の名は “快楽” だと言うと、彼女は急に恐れをなして、昔寺の坊さんから聞かされた話を思い出して(「ある日お寺で」)、父親の許へ帰りたいと懇願する。オオサカは彼女をなだめようとして、着物を見せたり抱きしめようとするが(「君の手を与えよ」)、イリスは泣き叫ぶばかりなので、ついに彼女を帰してやれとキョウトに言い、失望して帰ってしまう。そこでキョウトは彼女を遊女にしようとヨールの人形で機嫌を取り、豪華な衣裳を着せると、吉原の大通りに面した部屋に連れて行く。道行く人々はイリスの美しさに感激するので、それを目にしたオオサカは再び彼女が恋しくなって、キョウトにいくらでも金を払うと言い、大声でイリスの名を呼ぶ。
 その声を聞きつけた彼女の父親は、イリスの前に姿を現す。イリスも父親を見つけると、大喜びして自分の居場所を知らせるが、父親はイリスの希望に反して彼女を助けるどころか、反対にふしだらな娘と激しくなじって泥を投げつける。あまりの悲しみに絶望したイリスは、取り乱して芸者部屋の中に駈け込み、開け放たれた窓から身を投げる。


第三幕


 峡谷。イリスは富士山の谷底に落ちている。上の方に吉原の灯が見える。一人の浮浪者がやって来て歌うと(「月の賛歌」)、一群の浮浪者たちが集まってゴミをあさる。そのうち身投げしたイリスを発見して逃げ出す。オオサカ、キョウト、イリスの父親の声が、それぞれのエゴイズムを語る。
 やがて夜が明けると、イリスは手を差し伸べて太陽に呼びかける。太陽が上がり、暖かい陽光が降り注ぐと、光と花の賛歌が聴こえ、イリスの屍からアヤメの芽が吹いて美しい花が咲く。あたりの荒涼とした谷間も一変して、美しい花々に包まれる。





Reference Materials


初演

1898年11月22日 コスタンツィ劇場(ローマ)

初演
1898年11月22日 コスタンツィ劇場(ローマ)

台本
ルイージ・イッリカ/イタリア語

演奏時間 
第1幕49分、第2幕51分、第3幕24分(パターネ盤CDによる)

参考CD
●トコディ、ドミンゴ、ポンス、ジャイオッティ/パターネ指揮/ミュンヘン放送管、バイエルン放送唱(SONY)
●デッシー、クーラ、セルヴィーレ、ギャウロフ/ジェルメッティ指揮/ローマ歌劇場管・唱(Ric)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  




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