ウィリアム・テル(グリエルモ・テル)[全4幕] ロッシーニ作曲

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オペラ名作217 もくじはこちら
詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

イタリアオペラ

G. Rossini, Guglielmo Tell 1828~29
ウィリアム・テル(グリエルモ・テル)[全4幕] ロッシーニ作曲

 
登場人物

ウィリアム(グリエルモ)・テル(Br) マティルデ(S) アルノルド(T)  ジェミニ(Ms) エドヴィージュ(A) ジェスレル(B) メルクタール(B)  

概説

 シラーの原作はドイツ語の「ヴィルヘルム・テル」。初演された原語のフランス語では「ギョーム・テル」というが、現在では「グリエルモ・テル」としてイタリア語で歌われることが多い。ロッシーニの最後のオペラで、グランド・オペラ風の大作である。

第一幕

 スイス・ウーリ県のルツェルン湖畔にあるテルの家の前。平和な山村の農民や漁民が忙しく立ち働いているなか、一人テルはオーストリア圧政下の祖国を憂いている。今日は村の羊飼いの祭りの日で、長老メルクタールの司式で三組の結婚式が執り行われようとしているが、メルクタールは息子のアルノルドが年頃なのになかなか結婚しないのを嘆く。
 村人が去って一人残ったアルノルドは、敵側オーストリアのハプスブルク家の王女マティルデに対する恋心を歌う。彼は雪崩に遇ったマティルデを救った縁で、彼女と愛し合う仲になっている。遠くで狩りの音がするのでマティルデを想っているとテルに呼び止められ、圧政官ジェスレルに対して立ち上がるよう説得されるが、マティルデへの愛と祖国愛に挟まれて悩む。
 結婚式が始まるが、再び狩りの音が聞こえると、アルノルドはいても立ってもいられずその場から立ち去るので、テルは彼を追いかける。村人たちは婚礼の踊りを繰り広げる(バレエ「六人の踊り」)。その時、ジェスレルの部下に娘を犯された羊飼いがその兵士を殺し、助けを求めて逃げ込んで来る。愛国者テルはひるむ漁夫に代わって急流の中に小舟を出して、無事彼を対岸に逃がす。追っ手のオーストリア兵は腹いせに反抗的なメルクタールを捕らえ、村民の家々を略奪する。


第二幕


 ルツェルン湖畔のリュートリの丘。夕暮れも近く、狩人たちが引き上げて来るが、狩りの群れから一人離れてアルノルドを待つマティルデの胸はときめく(「暗い森」)。アルノルドが現れて二人は愛を確かめ合うが、人の気配がするのでマティルデは立ち去る。後をつけて来たテルと愛国者ヴァルテルは、アルノルドに祖国愛を説き、彼の父メルクタールがジェスレルの部下に殺されたと伝えるので、彼も祖国のために復讐に立ち上がることを誓う。日が暮れて月が湖を明るく照らすころ、スイスのウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンの各県から愛国者たちが続々と集まって来て同盟を結び、ジェスレルを倒す相談を始める。テルが計画を話し、彼の熱心な説得で一同は圧政に向かって闘うことを力強く叫ぶ。


第三幕


 第一場 アルトドルフの人里離れた庭園にある小さな礼拝堂。アルノルドはマティルデに父メルクタールがジェスレルに殺されたと語り、復讐のために恋をあきらめてこの地に留まる決意を伝える。マティルデは悲しむが、ジェスレル一行の近づく音がするので、アルノルドは彼女に永遠の別れを告げて立ち去る。(この場面は省略されることが多い)
 第二場 アルトドルフの中心の広場。オーストリアのスイス統治百年記念の祭典の準備のために人々が立ち働いている。奥の方にジェスレルの帽子をかぶせたトロフィーが立てられ、兵士が通りかかる住民に敬礼するように命じている。息子ジェミニを連れたテルが通りかかるが、帽子をあざ笑って行くので、見張りの兵士に羊飼いを助けたのはテルだと感づかれ、ジェスレルの前に引きずり出される。
 ジェスレルはテルが弓の名手だと知ると、息子の頭上に乗せたリンゴを見事射落としたら助けようと言う。父親の腕前を信じる息子に励まされたテルが狙いを定めて弓を引くと(「動いてはならぬ」)、リンゴは見事に射抜かれて人々は喝采するが、その時テルが隠し持っていたもう一本の矢が足下に落ちる。ジェスレルに問い詰められたテルは、もしリンゴを射損じたらジェスレルを射るつもりだったと答えるので、怒ったジェスレルはテルと息子を捕らえる。その時マティルデが現れ、皇帝の名で子供は自分の保護の下に置くと命じるので、さすがのジェスレルもしかたなくジェミニを渡す。テルはその日の夜中に水に囲まれたキュスナハトの城へ連行される。


第四幕


 第一場 荒廃したメルクタールの家。アルノルドが復讐の戦いを前に父をしのんでいると(「涙さそう沈黙の家」)、がやがやと仲間たちが現れ、テルが投獄されたので救出しようと叫ぶ。アルノルドは父と共に貯えていた手造りの武器の隠し場所を教え、皆は“勝利か、死か”と絶叫する。
 第二場 ルツェルン湖畔の岩の多い岸辺。嵐の前ぶれを告げる激しい雲の動きの中で、テルの妻エドヴィージュは夫と息子が捕らえられたのを嘆き、人々が慰めている。そこにジェミニを連れたマティルデが現れ、テルのために人質になってここで一緒に住むと言うので、エドヴィージュは感激する。ジェミニは父から反乱の決起の合図として狼火をあげるよう教えられていたのを思い出して、山に駆けて行く。
 この時羊飼いが、ジェスレルと兵士を乗せた舟が嵐に荒れ狂うこの岸辺に打ち上げられそうだと知らせに来る。漕ぎ手はテルで、岩場に近づくと、一人すばやく岩に飛び移り、舟を湖の沖へ押し戻す。そしてジェミニから弓と矢を受け取ると、岩場にたどり着こうとする舟の中にいるジェスレルめがけて矢を放つ。彼はもんどり打って湖の中に転落する。一方、ジェミニが上げた狼火を見て決起したアルノルドやスイス同盟の人々は、アルトドルフのジェスレルの城を攻略して戻って来る。
 嵐は静まり、スイスの澄みきった空気の中に、アルプスの山々が朝日に映えて美しく浮き上がっている。人々は圧政官が倒れ、再び取り戻した自由を賛美する。



Reference Materials


初演

1829年8月3日 パリ・オペラ座1829年8月3日 パリ・オペラ座

原作
フリードリヒ・シラー/「ヴィルヘルム・テル」

台本 
エティエンヌ(ステファノ)・ドゥ・ジュウイ、イッポリト・ビス/フランス語

演奏時間 
第1幕82分、第2幕70分、第3幕58分、第4幕36分(シャイー盤CDによる)

参考CD
●ビストレム、オズボーン、フィンリー/パッパーノ指揮/ローマ聖チェチーリア・アカデミー管・唱(EMI)
●フレーニ、ジョーンズ、ミルンズ、パヴァロッティ/シャイー指揮/ナショナル・フィル、アンブロジアン・オペラ唱(D)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  





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