死者の家から[全3幕]ヤナーチェク作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

チェコオペラ

L. Janáček, Z Mrtvého Domu 1927~28

死者の家から[全3幕]ヤナーチェク作曲


登場人物❖

アレクサンドル・ペトロヴィチ・ゴリャンチコフ(B) アリイエイヤ(S) フィルカ・モロゾフまたはルカ・クズミチ(T) シャプキイン(T) シシコフ(Br) 大男の囚人(T) 小男の囚人(B) 監獄所長(B) 老いた囚人(T) スクラトフ(T) チェクノフ(Br) 酔っ払いの囚人(T) 他

概説

 ヤナーチェクが残した九曲のオペラの最後の作品である。ドフトエフスキーが帝政ロシア時代の流刑地において見聞したことを記した小説をもとにしたユニークなオペラである。しかもアレクサンドル・ペトロヴィチ・ゴリャンチコフという貴族の政治囚から見たルポルタージュという形で記されていて、ヤナーチェクはその物語の中に個人よりも集団の存在に興味を抱いたと言われる。彼のあらゆる作品の中でも最高の傑作のひとつである。


第一幕

  

 19世紀中頃、シベリアのイルトゥイシュ河畔のほとりにある監獄の中庭。監獄の一日が始まり、囚人が顔を洗っている。そこに一人の政治犯の新参囚人アレクサンドルが連行されて来る。皆はその立派な身なりから新参者の身分を想像するが、監獄所長の少佐は彼のプライドが気に食わず、所有品の没収と百回の鞭打ちを命じる。

 やがて舞台裏から彼のうめき声が聞えてくる。囚人たちは翼の折れた鷹を捕らえて来て「森の皇帝」と名づけ、それに自由への憧れを託す。戻って来た看守に追い立てられるように囚人たちは働かされる。

 中庭に残った数人が裁縫の仕事をしている。囚人のうち頭の弱いスクラトフは、ルカと呼ばれるフィルカに支離滅裂なことを言うが、ルカは相手にしない。そのうちルカも身の上話を始める。それによると、彼はモスクワで兵隊だったが些細なことで睨(にら)まれ、ウクライナ人と獄舎に入れられる。そこでウクライナ人を扇動して反乱を画策し、ナイフを借りて日頃から自分は皇帝だと公言して威張り散らしている少佐を刺し殺した。しかしウクライナ人に裏切られた彼は、シベリアに送れてこの監獄に移されたのだった。そこに拷問を受けて衰弱したアレクサンドルが運び込まれる。

 

第二幕

 

 一年後のイルトゥイシュ河畔の草原地帯。夕方になる。アレクサンドルは、監獄に来てからダッタン人の少年囚アリイエイヤをわが子のように可愛がり、読み書きを教えるようになっている。復活祭を祝う教会の鐘の音が聞こえ、今日は囚人たちも作業を休んで自分たちで芝居に興じることが許されている。

 所長や衛兵たちが司祭や訪問客と一緒にやって来て、囚人たちに祝福を与える。スクラトフは仲間に向かって、彼には以前ルイザというドイツ人の恋人がいたが、男に奪われたので結婚式に乗り込んだところ、結婚相手が醜い中年の男だったので射殺したためにここに送られたという悲しいいきさつを物語る。

 即席の舞台の上では「ケドリールとドン・ファン」という芝居が始まる。これはドン・ファンが、召使のケドリールの地獄落ちの場面をもじったもので、続いて「麗しの粉屋の女房」という愉快なパントマイムが演じられ、爆笑と喝采のうちに舞台が終わる。皆は三々五々に獄舎に帰りかけるが、忍び込んできた売春婦が一人の若い囚人と言い合いになる。そこで粗暴な小男の囚人が湯沸かしを取り上げて投げつけると、アレクサンドルとお茶を飲んでいた少年囚アリイエイヤに当たって重傷を負う。彼は監獄病院に連れて行かれる。

 

第三幕

 

 第一場 監獄病院の病室。アレクサンドルが熱にうなされているアリイエイヤを看病している。暑苦しい病室は患者でいっぱいになっていて、同室の患者は言い合いをしながら咳払いをしている。そしてシャプキインは奇妙な身の上話をする。

 それによると、彼はかつて浮浪者時代に妻アクーリカが仲間のフィルカに夢中になったので、悩んだ末に彼女を殺してしまった。仲間は皆黙秘していたが、自分だけが耳が長かったために痛いほど耳を引っ張られ、無理矢理に供述調書を取られてこの監獄に送られて来たのだと言う。

 またシシコフは、付き合っていた娘がフィルカという男と寝たと噂され、かわいそうに思った彼女と結婚すると、実は処女だった。馬鹿にされたフィルカは彼女を殴るが、フィルカが出征する時に彼女は彼に愛を告白したので殺してしまったと言う。この話を聞いていたのが近くのベッドで死にかけていたルカだった。

 シシコフはルカが死んで初めて、自分の一生をだいなしにした男が獄内でルカという偽名を使っていたフィルカであったことに気づく。運び出される死者に向かって、シシコフは毒づく。

 第二場 第一幕と同じ獄舎の中庭。所長がやって来て、アレクサンドルにこれまで不当に扱って鞭打ちしたことを謝り、母親の嘆願が聞き入れられて彼が自由の身になったことを告げる。アレクサンドルはアリイエイヤたち仲間の囚人に別れを告げ、囚人たちは翼の癒えた鷲を解き放ち、自由への憧れを歌う。彼らはまた作業に戻るよう命じられる。

 

Reference Materials



初演
1930
年4月12日 ブルノ国民劇場

原作
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー/「死の家の記録」

台本
レオシュ・ヤナーチェク/チェコ語

演奏時間
第1幕27分、第2幕30分、第3幕36分(マッケラス盤CDによる)

参考CD
● ザハラドニーチェック、イェドゥリチカ、ジーテク、ペトロヴィチ/マッケラス指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D

● ノヴァーク、イルグロヴァー、プシビル、ジーテク/ノイマン指揮/チェコ・フィル・唱(Sup

参考DVD
● ベーア、シュトクローサ、マルギータ、スルジェンコ/ブーレーズ指揮/マーラー・チェンバー管、A・シェーンベルク唱(DG

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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