イェヌーファ[全3幕]ヤナーチェク作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

チェコオペラ

L. Janáček, Jenůfa 1894~1903

イェヌーファ[全3幕]ヤナーチェク作曲


登場人物❖

ブリヤ家のおばあさん(A) ラツァ・クレメニュ(T) シュテヴァ・ブリヤ(T) ブリヤ家の教会のおばさん(S、Ms) イェヌーファ(S) 粉屋の番頭(Br) 村長(B) 村長夫人(Ms) カロルカ(SMs) 牧童ヤノ(S)他

概説

 モラヴィアの寒村で粉屋を営む旧い封建的な家に繰り広げられる人間関係を描いたオペラである。物語自体は悲劇的な内容であるが、リリシズムにあふれたヤナーチェクの音楽はすばらしい。

 なおオペラの原題は原作の戯曲通り「彼女の養女」であるが、チェコ以外では「イェヌーファ」という題名が使われている。


第一幕

 

 寂しい山間にあるブリヤ家の製粉所。夫を亡くして製粉所の主となっているブリヤ家のおばあさんと孫イェヌーファが、ベランダに腰を下ろしてじゃがいもの皮をむいている。その左側ではおばあさんの長男シュテヴァの後妻の連れ子にあたるラツァが、大型の折りたたみナイフで鞭の柄の部分を削っている。

 おばあさんの次男の娘である美しいイェヌーファは、おばあさんの長男シュテヴァと関係ができて密かに子供を身篭っている。イェヌーファはこのところシュテヴァが近寄らなくなったので、もし彼と結婚できないならどうなることかと心配して聖母マリアに祈る。ラツァは、自分はおばあさんと本当に血がつながった孫ではないから、いくら真面目に働いても可愛がってもらえないと皮肉っぽく言う。イェヌーファはそんな恩知らずな話し方はいけないと彼をたしなめる。

 彼女が幸せをもたらすローズマリーが枯れると大変だと言って水をやっているところに、牧童ヤノが字を教えてくれとやって来る。そこに粉屋の番頭がやって来る。ラツァは彼にナイフを研いでくれるよう頼み、鞭でイェヌーファに悪戯をする。いやがる彼女にラツァは、もしシュテヴァが同じことをしても嫌がらないだろうにとひがむ。

 そうしているうちに番頭が、シュテヴァが幸いにも兵役検査に合格しなかったことを知らせに来るのでイェヌーファは喜ぶ。しかし彼女の養母にあたる教会のおばさんが入って来て、少なくとも一年間はシュテヴァの真面目な生活を見なければ、彼との結婚は許さないとイェヌーファに警告する(「そんな風に一生を暮らしたら」)。

 兵役を免れて千鳥足で帰ってきたシュテヴァは、よそでもてる自慢話をするが、そんな彼におばあさんは甘い姿勢で接する。イェヌーファは彼に改心するように言うが、本気では彼女を愛していないシュテヴァは取り合わずに行ってしまう。真剣にイェヌーファを愛しているラツァが、花束を持ってやって来て彼女を抱きしめようとするが(「何とまあ急にシュテヴァの自慢の数々は吹き飛んだのだろう」)、彼女に拒絶されてもつれるうちに、彼女の頬をナイフで傷つけてしまう。


第二幕

 

 教会のおばさんの家。第一幕から半年ほど経っている。イェヌーファは一週間前に男の子を産んだが、家名に傷がつくことを恐れた教会のおばさんは、妊娠中のイェヌーファを家に匿(かくま)って、人には彼女は留守ということにしていた。

 彼女はイェヌーファを睡眠薬で眠らせている間にシュテヴァを呼んで子供を見せ、イェヌーファと結婚させようとするが、シュテヴァは顔に傷がある女にはもう用がない、それに自分は村長の娘カロルカと婚約していると言って慌しく立ち去る。シュテヴァと入れ代わりに、嫉妬心からイェヌーファを傷つけたことを悔いているラツァが訪ねて来て、彼女との結婚を申し出る。教会のおばさんは、しかたなしにイェヌーファがシュテヴァの子供を産んだと告げるので、ラツァは衝撃を受ける。そこで彼女は、子供は死んだととっさの嘘をつき、彼にはもうちょっとしたら戻って来るように言う。

 彼女は子供を殺す決意をすると(「ちょっとしたらちょっとしたら」)、熟睡しているイェヌーファの傍らの赤ん坊を奪い、ショールにくるんで外に出て行く。しばらくして目が覚めたイェヌーファは、教会のおばさんも子供もいないので、きっとシュテヴァのところに行ったのだろうと自分に納得させ、聖母マリアに祈る(「かあさん、頭が重いのよ」)。

 帰って来た教会のおばさんは、イェヌーファが高熱で二日間も寝ている間に子供は死んだと言うので、彼女は子供の不幸な身の上を考えて運命を受け入れる気になる。教会のおばさんは、シュテヴァはイェヌーファと結婚する気がないが、ラツァはすべての事情を打ち明けた上でイェヌーファと結婚してよいと言っていることを伝える。そこにラツァが戻って来て、二人は愛を誓う。外では一陣の風が吹き、おばさんは死神が覗いているようだと怯える。


第三幕

  

 前幕と同じ教会のおばさんの家。あれから三ヵ月が経ち、イェヌーファとラツァの結婚の祝宴が開かれようとしている。村長夫妻をはじめ客たちが集まって来るが、教会のおばさんだけは罪の意識から健康がすぐれない。ひとしきり二人を祝ったところで、イェヌーファとラツァを残して皆は別室に移る。

 二人きりになると、イェヌーファはポケットから小さな花束を出してラツァに贈り、過去を忘れて新しい生活をはじめようと話している。シュテヴァもカロルカを連れてやって来て、ぎこちなく祝福の挨拶を述べる。人々が戻って来て楽しい歌を歌っていると外が騒がしくなり、ヤノが氷切り場で子供の死体が見つかったと知らせる。皆が駆けつけ、外からは「これは私の子」というイェヌーファの声がする。教会のおばさんは殺人を告白してイェヌーファに赦しを請い、カロルカはシュテヴァとの婚約を破棄する。彼女は村長に付き添われて出て行き、人々も皆立ち去る。

 裁判所に呼び出される身のイェヌーファはラツァも追い出そうとするが(「みんな行ってしまったあんたも行ったら」)、彼は彼女のために踏みとどまる決心をする。イェヌーファは神様の思し召しによる愛を感じて、彼に身を委ねる。

Reference Materials



初演
1904
年1月21日 ヴェヴェジー劇場(ブルノ)

原作
ガブリエラ・プライソヴァー/「彼女の養女」

台本
レオシュ・ヤナーチェク/チェコ語

演奏時間
第1幕39分、第2幕47分、第3幕31分(グレゴール盤DVDによる)

参考CD
● ゼーダーシュトレーム、ランドヴァー、オフマン、ドヴォルスキー/マッケラス指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D

参考DVD
● ドマニンスカヤ、クニプロヴァー、プシビル、ジーデク/グレゴール指揮/プラハ国立劇場管・唱(EMI

 

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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