ホヴァンシチナ[全5幕]ムソルグスキー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ロシアオペラ

M. P. Mussorgsky, Khovanshchina 1872~80

ホヴァンシチナ[全5幕]ムソルグスキー


登場人物❖

イヴァン・ホヴァンスキー(B) アンドレイ・ホヴァンスキー(T) ワシーリー・ゴリーツィン(T) シャクロヴィートゥイ(Br) ドシフェイ(B) マルファ(Ms) スサンナ(S) エンマ(S) 

 

概説

 前作「ボリス・ゴドゥノフ」においてドラマティックで迫力豊かな作品を書いたムソルグスキーは、この作品ではロシアの歴史そのものに基づいた叙事詩的なオペラの構想を進めた。17、8世紀ピョートル大帝による近代化への大改革を断行する直前の時代を背景にした史劇をもとに、ムソルグスキー自身が台本を書いた。美しいメロディは、ロシアそのものの音楽と言えるだろう。

 ムソルグスキーの死後、未完の遺稿をもとにリムスキー=コルサコフがオーケストレーションを行い、1883年に完成された。他にストラヴィンスキー編曲版もある。題名の「ホヴァンシチナ」とは、1682年ピョートル大帝の皇位継承の際に介入したホヴァンスキー公の騒動を意味している。

 

第一幕

 

 「モスクワ河の夜明け」として単独でも演奏される前奏曲で幕が上がる。17世紀末のフョードル大帝の死後、実弟のイヴァン・ホヴァンスキーは病弱という理由で異母弟のピョートルに帝位を奪われる。イヴァンの母后とその縁戚はそれを不服として反乱を扇動し、ピョートル帝の関係者を殺害して、イヴァンとピョートルの二人の幼帝が並立し、イヴァンの実姉ソフィアが摂政となっていた。

 1682年、モスクワの赤の広場の前。反乱の翌日、疲れ切った銃兵隊員たちが昨日のできごとを語り合ってから退散する。代書屋が不穏な時勢を嘆いていると、貴族のシャクロヴィートゥイが素性を隠して、イヴァンとアンドレイのホヴァンスキー父子が謀反(むほん)を企んでいるという偽りの密告書を代書させる。ラッパの音とともに、新しい銃兵隊長官イヴァンを先頭に隊員一行が現れて通り過ぎると、広場には美しいドイツ人の娘エンマを追い駆けて、イヴァンの息子アンドレイが現れる。銃兵隊に婚約者と父親を殺されたエンマは、激しくアンドレイを罵る。そこにかつてアンドレイに弄ばれた修道女マルファが来合わせてエンマを救う。イヴァンが戻って来て、息子と美しいエンマを奪い合う。分離派教徒の指導者ドシフェイはエンマをマルファに託し、ホヴァンスキー父子の争いをいさめる(「兄弟たちよ、同胞たちよ」)。

 

第二幕

 

 ゴリーツィン公の夏の館。皇女ソフィアの寵臣ゴリーツィンは皇女からの恋文を読んでいるが、彼女の強い権力と野心を知る彼はそれを信用できない。彼は召し出したマルファに運命を占わせると(「予言の歌」)、失脚と流刑の運命が出る。怒ったゴリーツィンは、口封じのために部下に彼女の殺害を命じる。そこにイヴァンが訪れ、政策を巡ってゴリーツィンと口論になるが、ドシフェイが現れて分離派のために反目すべきではないと説く。そこにマルファが駆け込んで来て、ゴリーツィンの部下に殺されそうになったが、ピョートル帝の護衛兵に助けられたと訴える。三人はやって来た貴族シャクロヴィートゥイとともにピョートル帝の実力を知る。ピョートル帝は陰謀者を「ホヴァンシチナの奴ら」と言い、全員の逮捕を命じる。

 

 

第三幕

 

 モスクワ河右岸の銃兵隊員の居住区。分離派教徒たちは讃美歌を歌いながら通り過ぎる。マルファは裏切られた昔の恋人アンドレイへの思いを切々と歌い(「愛の歌」)、彼と一緒に炎の中で死にたいと言う。分離派教徒のスサンナはそのようなマルファを責めるが、ドシフェイはマルファを優しく慰める。シャクロヴィートゥイが祖国の将来を憂いて歌うが(「ああ、不幸なる母なるロシア」)、勝利に酔う兵士たちは陽気に合唱をする。

 そこに代書屋が駆け込んで来て、別の銃兵隊員居住区がピョートル帝の軍に襲われたと伝える。兵士たちは急いでホヴァンスキーの館に行ってイヴァンに決起を促すが、イヴァンは時期尚早だと答えるので、皆は悲しみと不安に打ちひしがれる。

 

第四幕

 

 第一場 イヴァン・ホヴァンスキー邸の食堂。可愛い少女たちが歌う民謡を聞きながらイヴァンが食事をしている。そこにゴリーツィンからの急使がやって来て、身辺に注意するようにという伝言を伝える。しかしイヴァンはそれに取り合わず、女たちに官能的な踊りを舞わせる(バレエ「ペルシャ女奴隷たちの踊り」)。皇女ソフィアの使いと称してシャクロヴィートゥイがやって来て、貴族会議の招集を伝えるので身支度をするが、刺客に刺されて絶命する。

 第二場 モスクワの赤の広場。陰謀を企てたゴリーツィンは流刑地に追放される。ピョートル帝は分離派教徒の絶滅に乗り出したので、指導者ドシフェイは窮地に立つ。状況を理解できないアンドレイはマルファに当たり散らすが、身の危険を感じて彼女の手引きで逃げる。逮捕された銃兵隊員たちが刑場に引かれて行くところに伝令が来て、ピョートル帝の特赦が与えられたことを伝える。

 

第五幕

 

 松林の中の分離派教徒の僧院。月夜のもと、ドシフェイは敗北を認め、分離派教徒たちにピョートル帝に屈するよりも集団自決を呼びかける。分離派教徒たちは僧院に入り、マルファは積み重ねた薪に火をつけて僧院は火に包まれる。マルファはアンドレイと炎の中で一緒に死のうと抱き合う(「この聖なる地で」)。ピョートル帝の軍は、分離派教徒たちの壮絶な死を見て愕然とする。

 

Reference Materials



初演
1886
年2月21日 コノノフ劇場(サンクトペテルブルク)

台本
モデスト・ムソルグスキー/ロシア語

演奏時間
第1幕56分、第2幕40分、第3幕48分、第4幕39分、第5幕30分(下記CDによる)

参考CD
● ミンジェルキエフ、ガルージン、オホトニコフ、ボロディナ/ゲルギエフ指揮/マリインスキー劇場管・唱(PH、同DVDあり)

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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