ボリス・ゴドゥノフ[プロローグと全4幕]ムソルグスキー作曲

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詳解 オペラ名作217 野崎正俊 より

ロシアオペラ

M. P. Mussorgsky, Boris Godunov 1868~72

ボリス・ゴドゥノフ[プロローグと全4幕]ムソルグスキー作曲


登場人物❖

ボリス・ゴドゥノフ(B) フョードル(Ms) クセーニャ(S) シュイスキー公爵(T) シチェルカーロフ(Br) ピーメン(B) グリゴリー/ディミトーリ(T) マリーナ・ムニーシェク(Ms) ランゴーニ(B) ヴァルラーム(B) ミサイル(T)他

 

概説

 ムソルグスキーが残した唯一の完成されたオペラであり、彼の代表作というにとどまらず、ロシア国民オペラの最高傑作である。1869年に一応完成した初稿に手を入れ、1872年に完成したのが一般に原典版と呼ばれている。作曲家の死後に何種類かの改訂版が作られ、1908年のリムスキー=コルサコフによる第二改訂版に、イッポリトフ=イワーノフ版による第四幕第一場「赤の広場」を追加復活させて上演することが多い。また、1940年のショスタコーヴィチ版も知られている。

 

プロローグ

 

 第一場 モスクワ近郊のノヴォジェヴィチ修道院の裏庭。人々は摂政ボリスに帝位に就くよう懇願している。先帝の病死後、ボリスは皇帝に推挙されている。国会の書記シチェルカーロフが現れ、ボリスが帝位に就くことを拒んでいると告げると、巡礼の人々は修道院に入って行く。

 第二場 クレムリン宮殿の中庭。廷臣シュイスキー公爵が現れ、ボリスがやっと帝位を受けたことを民衆に伝える。人々の歓呼の中に帝冠を戴いたボリスが姿を現し、良心の呵責(かしゃく)に耐えながら不吉な予感を独白する。

 

第一幕

 

 第一場 ノヴォジェヴィチ修道院の僧房。老僧ピーメンが年代記を書きながら、恐ろしい物語をつぶやく(「もうひとつの物語で私の年代記は終わる」)。それによると、ボリスは先帝の異母弟ディミトーリを殺して皇位を奪取したとのことである。若い修道僧グリゴリーは、殺された皇子が自分と同年であるのを聞き出して密かな野心を抱く。

 第二場 リトアニア国境に近い旅籠(はたご)。女将(おかみ)が陽気に歌っていると、修道院から脱走したグリゴリーが浮浪僧ヴァルラームとミサイルを伴って現れ、寄進を求める。酒を振る舞われたヴァルラームは、イヴァン雷帝が昔タタールを征伐した話を物語る(「カザンの町であったこと」)。そこにグリゴリーの手配書を手にした警官が踏み込んで来る。グリゴリーが機転をきかせ、字の読めない警官に代わって手配書の人相をヴァルラームに仕立てるが、たちまち嘘を見破られるので、ナイフを振り回して窓から逃げる。

 

第二幕

 

 クレムリン宮殿の皇帝の居間。婚約者を失って悲しむ皇女クセーニャを乳母が元気づけ、皇子フョードルも愉快な歌を歌う。ボリスが入って来て、帝国の地図の勉強に余念のないフョードルを励ます。そして、最高の権力を得ても心の安らぎは得られず、常に不安と良心の呵責に悩まされていると独白する(「私は最高の権力を得た」)。

 そこにシュイスキーが現れ、ディミトーリ皇子と名乗る若者が、ポーランドの支援を得て攻め入ろうとしていると報告する。ボリスは罪悪感にさいなまれ、皇子の幻影に脅え狂乱する(「息がつまりそうだおまえに唯一の汚点が」)。

 

第三幕

 

 第一場 リトアニアのサンドミルのムニーシェク公爵の城内。ポーランドの軍司令官ムニーシェクの娘マリーナは、この城に滞在する偽ディミトーリを僭称(せんしょう)者と知りながら愛してしまい、彼と結婚してロシアを征服し、ロシア皇后になる日を夢見て勇壮な歌を歌う(「何と悩ましく、ものうく」)。そこにジェスイット教の高僧ランゴーニが現れ、ロシア人を正教徒からカトリック教徒に改宗させるために、まずあなたの力で偽ディミトーリを改宗させるようにと説得する。

 第二場 同じ城内の庭の泉のほとり。月夜の晩、偽ディミトーリがマリーナへの想いを歌っているとランゴーニが現れ、マリーナと結婚できるようカトリックへの改宗を促すので改宗する。

 マリーナとともに大勢の貴族や客たちが城内から出てきて、ポロネーズの踊りを繰り広げるので、偽ディミトーリは木陰に姿を隠す。やがて人々はボリスを倒そうと叫んで城内に戻る。偽ディミトーリはマリーナの美しさをたたえる。現れたマリーナは彼にモスクワ進撃の野望をたきつけ、二人は甘美な二重唱に酔う。

 

第四幕

 

 第一場 モスクワの聖ワシリー寺院前の赤の広場。群衆はディミトーリ軍がモスクワに進軍して来ると噂し、口々にボリスへの不満を語っている。白痴(苦行僧)が寺院から出て来たボリスを非難する。白痴は間もなく訪れるであろうロシアの暗黒時代を予言する。

 第二場 クレムリン宮殿の豪華な一室。偽皇子ディミトーリへの対策が論じられているところにシュイスキーが入って来て、ボリスがまたも狂乱していると伝える。錯乱状態のボリスが現れるので、陰謀家シュイスキーはボリスを陥れるためにピーメンを招き入れる。ピーメンは、ある盲目の羊飼いが、夢のお告げで皇子ディミトーリの墓にお参りしたら盲目が治ったという奇跡を物語る(「ある日、夕暮れ時に」)。ボリスは最後の時が近づいたと語り、皇子フョードルを呼んで後事を託すと、錯乱の中に息を引き取る(「さらば、わが子よ、私はもう死ぬ」)。

 第三場 モスクワに近いクロームイの森。ディミトーリ軍の進攻により暴徒と化した群衆が、ボリスの部下の貴族を捕らえ気勢をあげる。ヴァルラームとミサイルはボリスを倒して偽ディミトーリを皇帝に就けようと扇動するので、騒ぎはますます大きくなる。偽ディミトーリはモスクワへ進撃して行く。一人残った白痴は、再びロシアに暗黒時代が来るとつぶやく。

 

Reference Materials



初演
1874
年1月24日 マリインスキー劇場(サンクトペテルブルク)

原作
アレクサンドル・プーシキンの戯曲、ニコライ・ミハイロヴィチ・カラムジン/「ロシア帝国史」の第10

台本
モデスト・ムソルグスキー/ロシア語

演奏時間
プロローグ27分、第1幕42分、第2幕33分、第3幕53分、第4幕58分(カラヤン盤CDによる)

参考CD
● ヴィシネフスカヤ、ドブリアーノヴァ、ミリャコヴィチ、マスレンニコフ、シュピース、ギャウロフ、タルヴェラ/カラヤン指揮/ウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場唱(D

参考DVD
● ロイド、ボロディナ、レイフェルクス/ゲルギエフ指揮/マリインスキー歌劇場管・唱(PH

ショパン別冊 詳解オペラ名作217 2013年12月発行 無断転載禁止  



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