楽器の事典ヴァイオリン 第1章 ヴァイオリンの誕生とその時代による変遷 46 バロック・ヴァイオリンの復活

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[画像マドンナとレベックを持つエンジェル 
このレベックに指板がついている。
コシモ・ロジモ(1439~1507)

バロック・ヴァイオリンの復活

 戦後のヴァイオリンの演奏について注目すべき一面に「昔の音楽活動」の研究がある。つまり、バッハ、モーツァルトあるいはべートーヴェン時代の真実の音楽はどのようなものであったかという探索である。
 
 音楽は時代によって大きく変化してきた。
 ヴァイオリンについても、ベートーヴェン時代の標準ピッチと現在のものを較べれば半音程度の差があり、さらに楽器自体の構造も、さきに述べた通り、バロック・ヴァイオリンからモダン・ヴァイオリンに改造されて、音色も音量も全く変っているのである。
 弓についても、その構造もスプリングの強さも驚くほど変化している。
 つまり、昔の楽器と弓を使って、その当時の演奏法で、忘れ去られた時代の音楽をオーセンティック ー全く違わないようにー に甦らそうとする試みなのである。
 もっとも、大部分のヴァイオリン奏者にとっては、このような試みは思いもつかぬことで、最初は音楽学者と優れたバロック・ヴァイオリンの奏者だけがこのような試みに熱心であった。
 ところが、この試みは、音楽学者と優れたアマチュアの奏者によって、思いもかけず世界的に広がって、バロック・ヴァイオリンとモダン・ヴァイオリンの製作上の相違に関する無知をさらけ出したのである。
 そのため、ヴァイオリンの製作の市場に、如何にしてバロック・ヴァイオリンと当時の弓を作り出して、当時の演奏法に適応させるかの課題が持ち上った。
 例えば、バッハのヴァイオリン曲を演奏する場合、現在の楽器と弓では二本の弦を同時に鳴らすことはできても、バッハの譜面通りに、多くの弦を一度に鳴らすことは不可能なのである。
 つまり、バロック・ヴァイオリンを復活させて、ヴァイオリンによる音楽の演奏範囲を拡大しようとする運動が拡がってきたのである。
 現在のバロック・ヴァイオリンは、伝統的製作技術をもつマスター以外のアマチュアのメーカーによって作り出されたと伝えられるが、そのうちに、大昔のオリジナルな形態で残されているバロック・ヴァイオリンを探し出すこと、および一度モダン・ヴァイオリンに改造されたものを、さらに改造して、元の形態に戻す運動にまで拡がった。
 そのため、モダン・ヴァイオリンとしては改造が難しかった胴の膨んだ古い楽器が生命を復活した。
 その昔に愛好された、スタイナーやアマティ型の優雅な音色をもつ、ドイツ、オランダ、イギリスおよびフランスなどで作られ、現在のコンサートに適さない諸楽器が改めて見直され、オリジナルな楽器によるオリジナルな古典の作品の演奏として尊重され始めたのである。
 これらのスタイナーおよびアマティ型の大量生産の楽器は、わが国ではあまり見当たらないが、ヨーロッパの諸国ではあり余っているほど多く残されており、オークションなどで容易に入手できる。
 
 以上ながながと述べてきた通り、ヴァイオリンの歴史とその時代による変遷の跡をたどってみると、最も理想的で優れた楽器は、クレモナの黄金時代に作り出されたオールド・ヴァイオリンであるという結論がでてくる。
 そのため、科学が異常に発達した現在でさえ、ヴァイオリン・メーカーたちの究極の目的は、これらオールド・ヴァイオリンに近づく楽器を製作することにある。
 音楽の嗜好は時代により振り子のように変化するものであるが、ヴァイオリンに関する限り、どのように試行錯誤を繰り返して努力しても、ストラディヴァリを始めとする、偉大なクレモナのメーカーたちの作品が、古今東西を通じて、最高のものなのである。




楽器の事典ヴァイオリン 1995年12月20日発行 無断転載禁止


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