楽器の事典ピアノ 第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 8 20世紀のピアノの革命

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[画像]ヤマハ輸出用コンソール S50 フレンチ・プロビンシャル


二十世紀のピアノの改革

 今世紀のピアノのイノベーションを強いてあげれば、小型ピアノの出現、合成接着剤の開発、各種プラスチックの採用および電気および電子ピアノの出現などであろう。
 これらについては、歴史が短いので、確実に信頼できる文献も資料も見当たらないが、以下、さまざまな本から拾い上げてその実体を探ってみよう。

 小型ピアノ "スピネット"あるいは"コンソール"と呼ばれる小型ピアノは1935年頃に作り出された。これは、別名"ミニチュアピアノ"と呼ばれ、1930年代の大不況でピアノメーカーが相継いで倒産した際の救いの神として生み出されたと伝えられている。
 最初の小型ピアノは、スカンジナビアで作られ、ケースの高さは36インチで高音部は2本弦であった。この楽器は今でもデンマークで取り扱われているという。現在のドイツのものは42インチで、アメリカは36〜40インチである。
 これらのスピネットピアノはアパートなど狭い部屋に適しているが、弦長は低音部において短くなるので、音質は当然低下する。だが、安定性がよくケースのスタイルの優美なものが多い。
 欧米のアップライトピアノの大部分はこのスピネットであるが、我が国では輸出用以外にはほとんど作られていない。
 イギリスのあるメーカーは日本のピアノに対してーーヨーロッパで50年以上前に売られていた背が高くて醜悪なものーーという意地の悪い批評を下しているが、わが国のアップライトは音質的には理想の高さを持っている。

 音域 アメリカと日本のピアノの音域は7オクターブ4分の1、つまり88鍵であるが、イギリスでは6オクターブ、7オクターブおよび7オクターブ4分の1の3種類のものが作られており、西ドイツでは7オクターブ3分の1(これはドイツだけの名称で実際は88鍵)、東ドイツでは7オクターブと7オクターブ4分の1のものがある。特にイギリスでは音域の狭い小型のスピネットが多く作られている。イギリスのメーカーの主張によると最高音の三音は不必要であるという。この三音を使って作曲した人はブラームスとラフマニノフだけでしかもほとんど使わなかったそうである。

 ミニチュアピアノ 5オクターブ3分の2および6オクターブのピアノをミニチュアピアノと呼んでいる。これらはピアノを小型化して安価にしたものであるが、最も始末に負えぬ楽器であると断定されている。その構造は、弦が短くてその数が少なく、スケーリングも誤っており、テンションが不適当で、しかもハンマーの力が不揃いで、良い点は一つもなく、ピアノメーカーが作った最も恥辱的な楽器であるという。
 このミニチュアピアノが作り続けられているのは、世の中にはピアノのことを全く知らず「何でもよいから買ってみよう」という人々が意外に多いからである。このピアノのセールスマンは口ぐせのように「64鍵あればバッハの曲が全部弾ける」というが、バッハこそいい迷惑で、この楽器は、サービスマンもチューニングを断るほど悪評高いものなのである。わが国でも、一時、この高音部が2本弦の64鍵のピアノが作られたことがあるが、現在では全くその姿を見ない。

 フルサイズアップライト フルサイズアップライトピアノは小型グランドとほとんど同じ面積の響板と同じ長さの弦長をもっており、音質も極めて似ている。この背の高い楽器は現在アメリカではほとんど作られていないが日本からの輸入ピアノに多くその音の良さのために、最近その価値が認識され始めて需要が急増した。

 合成接着剤 昔のピアノの木部の接着剤としては有機物であるニカワが使われていたが、1930年代以降はボンド系の各種の合成接着剤が使われ始めた。そのため1枚板のケースは全く無視されて、すべてプライウッド(合板)が使われ始めた。その理由は、安価なしん材に美しい合板をかぶせて作る場合、チーク、ウォルナットあるいはローズウッドの一枚板を使うよりはるかに経済的で木目も美しく、しかも気候の変化の多い地方でも狂いを生ずることがないためである

 プラスチックの採用 プラスチックはピアノのアクション部門その他に急速に採用され始めたが、この新しい物質は、歴史がないため、エイジング(経年変化)その他の点について、その可否についての疑問が残されている。伝統的な技術を忠実に守って来た人びとはこの傾向を危険視しているし、新しい時代の若者たちは、何の抵抗もなしに、この便利なものを受け入れている。
 新しいピアノの中には、リッペンやリンドナーのように、アクションの部分をほとんどプラスチックで作り上げるという画期的なもののあるが一般のピアノに採用され始めているのは次に述べる部分に対してである。

 キーカバー ピアノのキーのカバーとしては、伝統的な材料として、白鍵には象牙、黒鍵には黒檀が使われ、特に象牙は演奏の際の手触りが最高であるといわれてきたが、双方とも高価で入手困難なものとなったため、現在では大部分のピアノにアクリル系統のプラスチックが使われている。これらのプラスチックは、象牙と比較した場合、安価で、硬度が高くハゲ難く、褪色せず、しかも指の脂肪や汚れを吸収しないという特性を持っている。
 プラスチックのキーカバーの場合、成型で作られるために、表面と前面を一体にしたりあるいは表面と前面と側面を一体にすることもできる。後者の場合、キーを押さえた場合、従来のピアノのように、キーの側面の汚れが見えるということがない。キーカバーの表面は、指を痛めないように、端に丸みをつけて厚く成型されるため、表面が波打つという欠点は全く見られなくなった。また、黒鍵の場合、昔の安価なピアノに起きがちなエナメルがはげるというようなことも一切なくなった。
 キー全体をプラスチックで作る際は、キーの後方へプラスチックのキャンプスタンスクリューをつけてキーの前面の高さを揃えるようにアジャストすることができる。この際、従来のピアノのように各種の厚さの紙をポンチで抜いてこれを適当に差し入れて高さを調整するという煩瑣(はんさ)な操作が不必要となり、キーを簡単に取り外してそのレベルと沈みの深さを自由に調整することが可能となった。

 テフロンの採用 最近の改良点としては、アクションのセンターピンの個所および回転部分に、テフロンのブッシングを使い始めたことがあげられる。
 テフロンは高価なプラスチックであるが、その耐久性が極めて優れており、センターピンの個所にうめ込むと全く摩擦がなくしかも腐食されることがない。フェルトのブッシングは不必要となったのである。なお、フロントレールピンその他の回転部分にもこのテフロンを使い摩擦抵抗と摩耗を防いでいる。

 ナイロン 黒鉛を含んだナイロンをジャックとして使う場合もある。普通のピアノのジャックは木製で、その端に黒鉛をつけて磨いて摩擦を少なくするが、この黒鉛はやがて取れてしまう。黒鉛を含んだナイロンで作った場合摩擦系統がはるかに少なく、しかも耐久性がある。フランジもナイロンで作られ始めている。プラスチックは木材と比較した場合、気候の変化、つまり温度と湿度の上下に対して、比較にならぬほどの耐久力があるのである。しかし、その疲労度と経年変化に関しては疑問が残されている。
 なお、プラスチックの応用以外の点でも、次に述べるような各種の改良が試みられている。

 ☆3分の1プレートと呼ばれるもの ピンブロックの個所の鉄のプレートを除いたもの。

 ☆キーをセンターレールピンとフェルトの代わりに平らなスプリングで支えるもの  この構造の場合、キーのバランスを取る鉛が不必要となり、キーの動きが活発となる。そのためレペティションが改良されセンターレールピンのキーホールの付近が磨耗する恐れがなくなった。

 ☆左巻きのネジ山を持ったチューニングピンの採用 普通のピアノのチューニングピンとは逆の方向のミゾを切ったもので、調律者を困らせる意地の悪い考案である。このピアノでは従来の操作で弦を締めようとするとゆるみ、その逆に、ゆるめようとすると締まる方式となっている。これは弦の張力でチューニングピンがゆるまない効果がある。

 ☆アップライトピアノのダンパーレバー・フェルトのベアリングとして円筒形のスプーン状のものを使ったもの 抵抗が少ないといわれている。

 ☆アルミニュウム合金のフレームとアクション 重量を減少させることができる。
 
 ☆ペダルの端に平板のスプリングをつける方法 ペダルのキシむ音を消すことができる。

 ☆弦に錫(すず)のメッキをかける 錆の発生を防止できる。
 しかし、これらは、画期的な改良とは思えないので、詳しいことについては省略しよう。
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ヤマハ輸出用コンソール S50 フレンチ・プロビンシャル


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ヤマハ輸出用コンソール C5F メディタレニアン・スパニッシュ

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エベレット6021 イタリアン・プロビンシャル

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ケーラー・アンド・キャンベル ニューヨーカー・フレンチ・プロビンシャル

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ヤマハ フルサイズアップライト U3M

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カワイ フルサイズアップライト KL-801

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クロイツェル 最高級アップライト "大和" ウォルナット・アンチーク仕上げ 手彫り彫刻 象牙・黒檀鍵盤 131cm


改訂 楽器の事典ピアノ 平成2年1月30日発行 無断転載禁止


▶︎▶︎▶︎第2章 黄金期を迎えた19世紀・20世紀 9 部品の果たす役割とその発達の歴史

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