M. Ravel, LÅfHeure Espagnole 1907

スペインの時［１幕］ラヴェル作曲

❖登場人物❖

トケマルダ（Ｔ）　コンセプシオン（Ｓ）　ゴンサルヴェ（Ｔ）　ドン・イニゴ・ゴメス（Ｂ）　ラミロ（Br）

❖概説❖

　ラヴェルはパリのオデオン座で、ノアンの同名の笑劇（ファルス）を見てオペラ化を思い立ち、ノアンに許可を求めた。驚喜したノアンは、自ら進んで台本制作に協力したという。原作が持つ諷刺と、ラヴェルの洗練された音楽が結びついて、生き生きしたオペラになっている。　
　初演はマスネの「テレーズ」との二本立てであったが、ラヴェルの方がずっと好評であった。

　トレドの町の時計屋の店。店主のトケマルダが仕事台に向かっていると、ロバ引きのラミロが時計の修理の依頼にやって来る。

　トケマルダの女房コンセプシオンが出て来て、今日は市役所の大時計を合わせに行く日だと夫の外出をせかし、二階の自分の寝室に運び込むはずの大時計がまだここにあると文句を言う。重過ぎて運べないと答えるトケマルダは、ラミロにすぐ帰って来るから待っているよう言い残して出かける。

　コンセプシオンは夫の留守中に恋人を引き入れるつもりだったが、ラミロが邪魔（じゃま）なので、ひとまず店の大時計のひとつを自分の寝室に運ぶようラミロに頼む。ラミロは軽々と大時計を担いで二階に行く。

　そこに詩人気取りの若い学生ゴンサルヴェがやって来てコンセプシオンと抱き合う。しかしラミロが二階から戻って来るので、コンセプシオンは先ほどの時計は自分の思い違いでもうひとつの方の大時計だったとわびて、時計を取り換えるよう頼む。

　ラミロが先ほどの時計を取りに再び二階へ行っている間に、彼女はゴンサルヴェを大時計の中に押し込める。彼は棺桶のようだと気味悪がりながらも、愛は何よりも強いと言って時計の中に隠れる。

　今度は銀行家イニゴがやって来て、コンセプシオン一人だと思って彼女に言い寄るので、彼女は大時計には耳があるといさめる。ラミロが大時計を担いで降りて来ると、コンセプシオンは今度はゴンサルヴェの入った大時計を指さして、こちらのは重いけれどと言うが、ラミロは軽々と持ち上げてしまうので、コンセプシオンはこれ幸いと一緒に二階へ行ってしまう。

　後に残されたイニゴは彼女をびっくりさせようとして、太った体を無理やり別の大時計の中に隠す。ラミロが戻って来て、コンセプシオンの美しさに惹かれて独白していると彼女が戻って来て、もう一度大時計を取り替えて欲しいと頼む。ラミロが二階に去ると、大時計の中からイニゴが声をかけるので、彼女はびっくりする。ラミロはゴンサルヴェが入った大時計を担いで降りて来ると、今度はイニゴの入った大時計を担いで二階へ行く。

　コンセプシオンはゴンサルヴェを大時計から出して家に帰るように言うが、帰ろうとしないので一人で奥に行ってしまう。そこにラミロが戻って来るので、ゴンサルヴェは慌てて大時計の中に潜り込んで隠れる。ラミロはますますコンセプシオンの魅力に惹かれ、あの人の夫になりたいと夢見て頼まれないのにイニゴが隠れている大時計を取りに二階に上がって行く。コンセプシオンも力強いラミロを好ましく思い、大時計を担いで降りて来たラミロに、もう大時計は運ばなくてもよいと言って彼と一緒に二階へ上がる。

　そろそろ店主が帰る時間になるが、イニゴは腹がつかえて大時計から出られない。ゴンサルヴェが未練がましく店に残っていると、トケマルダが帰って来るので、再び大時計の中に隠れる。トケマルダはただちに二つの大時計の中の客たちに気づいて、言葉巧みにそれぞれ時計を買わせてしまう。店主とゴンサルヴェは、イニゴを大時計から引っ張り出そうと悪戦苦闘している。

　コンセプシオンと一緒に二階から降りて来たラミロは、それを見て一人でやすやすとイニゴを引っ張り出してしまう。人の良いトケマルダはラミロに感謝する。そして大時計は二台とも売れてしまったので、ラミロがロバを引いて下を通る時は、女房に時間を教えてやってくれと頼む。

　全員は、「役に立つ恋人を一人だけ選べ」というボッカチオの教訓を愉快そうに歌って幕となる。

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