❖概説❖

　ヴァイルは若い頃はロマン派オペラの世界で作曲を学び、歌劇場でキャリアを開始した。その後、ブレヒトと出会うことによって、民俗的な音楽から風刺の世界に強く惹かれるようになった。1926年に女優ロッテ・レーニャと結婚するに至って、さらにそれは顕著になった。
　このオペラは、ブレヒトとの出会いの頃から構想され、最初にソングシュピーゲルと名付けられた「マハゴニー」（小マハゴニー）が作曲され、それを発展させた形でオペラに到達した。「三文オペラ」とほぼ並行して作曲されていて、ナチスが台頭した頃の世相を痛烈に批判した風刺劇である。全三幕二十景に及ぶので、煩雑を避けるためにあらすじは各幕ごとに記述した。

第一幕

　舞台は金の採掘でにぎわうアメリカ・アラバマ州のとある海岸沿いの砂漠地帯。荒れ果てた土地に故障したトラックが止まる。彼らは警察に追われて逃げて来たので、引き返すわけには行かない。一攫千金を夢見てここまでやって来たベグビック夫人、モーゼス、ファッティの三人は、砂漠で金を採掘するのは大変だから、ここにマハゴニーという欲望を満たす快楽の都市を造って、金を持っている人からそれを巻き上げようと相談する。

　数週間の後に都市が誕生する。最初に人喰い鮫と呼ばれる娼婦のジェニーと六人の女たちが移住して来て、故郷を偲んで歌う（「アラバマの月」）。快楽都市建設のニュースが各地に広まり、モーゼスとファッティはプラカードを手に世界各地の不満分子を集める。数年の間に各地の不平分子が快楽都市マハゴニーに集まる。

　アラスカからはジム、ジャック、ビル、ジョーの四人組が札束を手にマハゴニーにやって来る。彼らはさっそくベグビック夫人の餌食になり、ジェニーと六人の女たちを紹介されて大金を払うが、トランクを下げて町から逃げ出そうとする人を見て疑念を抱く。この快楽都市はまたたく間に犯罪が蔓延して物価上昇の危機が迫り、人々は町を去って行くので、ベグビック夫人たちのもくろみは挫折する。

　そこにハリケーン襲来の知らせが入り、すでに隣町のペンサゴラは全滅したと言う。ベグビック夫人は、それならば自分たちを追ってきたポリ公も全滅したろうと喜ぶ。ジェニーは恐怖におののくが、達観したジムはベグビック夫人に対して、ハリケーンの力で吹き飛ばされるような平和と協調など意味がないと言う。みなはジムに脱帽する。ハリケーンがするように、あらゆる禁止令を廃止して「お構いなし」という言葉がマハゴニーを支配する。

第二幕

　ところがハリケーンは、マハゴニーの町に到着する一分前に停止して迂回してしまう。安堵した市民の「お構いなし」というモットーのもとに町は大繁盛する。そして飲み食いやセックスが蔓延し、大食漢のジャックは食べ過ぎて死んでしまう。ジョーは大男のモーゼスとボクシングをして死んでしまう。ジムはジョーを応援しようとこの試合に全財産を賭けるが、彼が負けたために無一文になってしまう。それなのに「お構いなし」のモットーのもとに無銭飲食を働いた罪で逮捕される。

第三幕

　金を持たない悲哀で、ジムは牢獄に縛られている。栽判の結果も金次第で、裁判官はベグビック夫人、検事がモーゼス、弁護人はファッティが務めて開廷する。殺人犯のトビーの最初の公判中にも、裁判官と指の合図で賄賂の金額が交渉され、トビーは無罪になる。ジェニーの売春強要罪も、買収された証人の証言で無罪になる。ところが、お金がないために裁判官の指の合図による賄賂の交渉に応じることができないジムはたくさんの罪を負わされ、一文なしこそ一番の犯罪として死刑になる。

　こうしてアラスカからやって来た四人の中では、ただ一人ケチンボとのあだ名を持つビルだけが残る。この町は今ではお金の法則が幅を利かせて物価は高騰し、ベグビック夫人が描いた理想郷の町は混乱に陥る。

　ある日、酒浸りの町を神が訪れて皆を地獄に連れて行こうとするが、男たちは、ここはもう地獄だからと言って神の命令に従わない。そこにジムの柩が運ばれて来る。その前でファッティはジムの偉大さを称えるが、「誰も君を、他人を、救うことはできない」と皆で唱和する。

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