わが青春に歌あり――学生合唱団座談会(後編)

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「合唱界」VOL.1-11・12(昭和32年11月10日発行)より
わが青春に歌あり
――学生合唱団座談会(後編)

【出席者】
立教大グリークラブ(混声)
 鈴木敏朗(学生指揮者)
法政大アリオン合唱団
 宮原寛之
東大コールアカデミー
 小林俊策
慶応ワグネル・ソサイエティ
 渡辺学而(学生指揮者)
横浜国立大グリークラブ
 木下 治
 小浜立也
日本女子大合唱団
 古田洋子(学生指揮者)
 村山博子
司会
 二俣松四郎(明大合唱団常任指揮者)



コンクールなど

二俣 コンクールのことを……
鈴木 立教は、コンクールにでも、特別コンクールのための練習はしないことになっているんです。定期演奏会の練習をしていてその合間合間に、ちょっとやる程度で、コンクールの一週間くらい前になってから、コンクールの曲ばかりやるんです。
二俣 コンクールに出ない学校はどういうわけでお出にならないのですか。
宮原 結局、法政なんか実力がないということですね……(笑)。そのために練習が非常に負担になるんです。それに今年は指揮者が新しく変わったばかりですから、先生の負担になるんじゃないかと思いましてね、その点を考えたわけです。
小林 僕たちは、コンクールに出るとすれば、今後の定期演奏会の練習なんかとてもできませんし、やっぱり夏休みの後の試験などでコンクールの練習はとってもできないです。
二俣 私らの方は、先週あたりから、やっとコンクールの練習にかかったくらいです。
渡辺 慶応の方は、秋のスケジュールが詰まっておりましてそれをやっていると間に合いません。総会をやりまして、結局できないということに決めました。
二俣 特別、コンクールのやり方とか、合唱連盟の在り方について、ご不満があって出ないというというわけじゃないのですか。
宮原 そういうわけじゃない。
小林 僕たちは、部員の中では、相当そういう意見が強い……。
渡辺 部員の中には、そういう奴がいることはたしかですね。
鈴木 コンクールは、僕らまともに考えているわけじゃないですから……。合唱団が優勝しておちたとしても、合唱団自体にとっては変わらないと思います。ですから、そんなに深刻には考えていません。もちろん、優勝すれば切符の売れ行きもよくなるし(笑)。それに加えて舞台も多くなりますから、ちゃんとした自信をもないと出られなくなりますね。
二俣 選曲の問題ですね。コンクールじゃなくて、ステージの点…。そういうふうなものはどういうふうにお決めになりますか。
鈴木 僕らの学校のたてまえとしては、まず、中世の聖歌を第一に持ってきて、それから、みんなの知っている曲も1曲くらい、それでたくさん集まった中から、石丸寛先生や辻荘一先生に相談して、どういうふうにしたら、学生の合唱団として、一番いい形が出るか、いろいろとやりまして、それから決めるんです。
小林 僕たちは正式な手続きで決めるという機会は別に作っていないのですけれども、やっぱり、なんと言いますか、伝統というものがあって、ドイツの民謡だとか、そういうものになるんですけれどもね……。
宮原 私たちは聞きました感じで一応認めまして、それから幹事会の方が常任指揮者のところに行って、どうでしょう、って言うんです。僕たちの実力を見ていただいたうえで、適当にね……。
渡辺 私たちはパートリーダーの連中が集って選曲をするんですが、譜面が廊下なんかにたくさんありますから、古いやつなんかみんな見ましてね、どういう曲をやるかってやるわけですね。
鈴木 うちでは、演奏曲目を全部聖歌でうめたいですけれども、そうもいきませんしね。ふるいにかけるのに苦労します。それに石丸先生にすぐアレンジしてもらえるので……。部員のみんなが石丸先生のアレンジを非常に好いていますので、好んでやります。
宮原 僕なんか探してみても男声の曲なんてなかなかないで、結局田中信昭先生にお願いしてアレンジしてもらうということになっちゃうんです。田中先生にアレンジしていただいたものの方が歌い良いので、結局お願いしちゃうのですね。
二俣 私は教会でオルガニストをやっておりますので、宗教ものをやりたいと思うのですけれども、明治が宗教ものを……、そういうことはちょっとね……(笑)。やりましたけれども、家内からおかしいと叱られましてね(笑)。女声の方は選曲なんかどういうようにして……。
古田 女声のは探しても譜が少ないですから、本屋にあるのを全部買ってきてアレンジしたものばかりで……。結局木下保先生がいろんなところの合唱団の指揮をなさってますから、名古屋の「花のコーラス」とかそういうものでおもしろいのを集めてくださってそれをやるわけです。
二俣 合唱の曲で出版されているものは、ずいぶんあることはあるんですけれども、いざとなると、大学の合唱団として、一応勉強させるような曲目は案外ないんじゃないですか。もっといい楽譜をどんどん出してもらいたいと思いますね。

指揮者の問題

編集部 関西の学生さんは指揮者を外から呼ばないで、自分たちでやっていますね。ところがこちらの学生さんはたいてい外から呼んでいますね。その辺のことはどうなんでしょう。
小林 やっぱり、外から指揮者を呼ぶといろいろ有益なことが多いですね。こんなことは実際はいけないんですが。同級生が振っていると、やっぱりそこに気分的にまとまらないという点も出てくるわけでしてね……。
鈴木 関西の場合は、呼びたくともまかなうだけの資金がないというせいもあるんじゃないでしょうかね。
小林 関西の合唱団では、外から呼ばない一つの理由は、外から呼ぶと、合唱団の運営というものが、指揮者に牛耳られるという点があるんじゃないんですか。
鈴木 指揮者を呼んで、指揮者に全てを任せてしまわないということは無意味なことだと思いますね。こちらから、注文をつけてこういう曲を、こういうふうにやってくれ、などとその人にまかせて、その人の通りに解釈するように演奏することが、本当の合唱団じゃないかと思いますが……。結局それだけのことが、指揮者ができなかったらそういう指揮者は呼ぶ必要はないんで……。ですから、それだけの相当な実力を持っている指揮者がいて、練習に出ていただけるならば、学生の指揮をやめて、早く呼びたいと思うのですけど、なかなか人選も難しいです。こちらから来ていただきたいという人は、あまり練習を見ていただく暇がなさそうで、やはり学生がやることになってしまいます。
二俣 結局指揮者はもちろんただ拍子をとっていればいいだけじゃなくて、合唱団を作って結局、指揮者の考えている音楽を発表するのだけれども、それを学生がやる場合、学生同士が研究するということは大変だろうと思います。けれども、やっぱり、学生の実力以上には出ない。勉強にもならないんじゃないか……。
鈴木 本来なら、指揮者がいつもその合唱団についてやっていかなければならない。今はそれは難しいと思いますね。3つも4つも掛け持ちでやっておられる指揮者を頼んでも……。

税金の話

編集部 合唱曲の新曲についてはどうですか。
小林 新しい曲を作ってほしいという意見は大いにありますね。
宮原 特に日本人の作った歌は欲しい。
編集部 だいたいどういうものを取り上げていらっしゃるのですか。
鈴木 あまりないですから……。できても非常に薄っぺらなもので、何か僕らがちょっと見ても、素人に毛の生えたような作曲をしたものもありますし、『柳川風俗詩』なんか非常に良くできていると思うんですけど、その次の『雪と花火』ですが、あれなんか、非常にマンネリで行き詰ったという感じがしますね。
木下 しみじみ感じることのできるうような日本のものを歌ってみたいですね。
小浜 昔からアメリカにしても民謡を素材にした合唱曲ができておりますね。しかし日本民謡は、どうもあまりできませんね。税金の関係もあってね……。
鈴木 税金の関係でね(笑)。演奏会で日本の民謡を入れると税金が高くなりますから……。あれ、不合理ですね。外国の民謡は2割、日本の民謡が入ると、とたんに純音楽じゃないからって入場税が高くなるんです。その関係で、曲の中に入れられないから、アンコールでちょっと1曲くらいやる程度で……。
宮原 日本民謡として組んだら絶対だめ。「五木の子守唄」を1曲だけやったら非常にもめたことがありましたからね。「それは通俗音楽だから税金を高くする」って……。
小林 本当に国税庁の考えることは……(笑)。
宮原 「民謡はいけない。ただし『サンタ・ルチア』や『ヴォルガの舟唄』はよろしい……」って書いてあるんです(笑)。ばかばかしくて話にならないです。
編集部 最後に今後、学校をお出になってもずっと歌っていらっしゃいますか。
鈴木 大学生は人生の中で一番恵まれて、金はあるし、暇もわりとありますし……。しかしこれが飯とつながってきた場合、それだけの余裕があるかどうか、恵まれたところに就職して、コーラスのあるところなら、歌うことはできますけれども。
古田 私たちは今のところ1年に1回演奏会をやりますけれども、OB、OGの方に出ていただいて、合同演奏会をやっているんです。それだけは出たいと思っております。ただ私たち女性は、男性に比べたら、卒業してから歌う機会がないと思います。そういう場合に、それとはわかっていても、ちっとも来ない先輩というのは、うらめしいですね。私たちとしてはすごく、裏切られたような気持ちがします。なるべくだったら出てきてほしいと思うのですけれども、知らん顔をするような先輩もいますね。もっとも、そういう方は、熱心じゃなかったことは熱心じゃなかったのですが……(笑)。悲しいですね、私たちは……。
編集部 そういう風にはなりたくない……。
古田 ええ……。
※仮名遣いは現代のものに、その他の表現等は当時のものを使用しております。

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