帝京大学中学校・高等学校 邂逅祭 (文化祭)
“生徒の、生徒による一大イベント”は、生徒の熱い想いとともに文化祭という概念を越えて
学校の文化を伝え、その魅力を発信する。
学校の魅力と文化を伝える一大イベント『邂逅祭』は、
生徒たちの八面六臂の大活躍でつくられている。
生徒たちのあふれる笑顔は、来場者を楽しませ、
次の世代へ言葉よりも雄弁に熱い想いを伝えていく。
偶然のめぐりあいから始まる未来と可能性
帝京大学中学校・高等学校の文化祭『第34回 邂逅(かいこう)祭』が、10月28日・29日の2日間で開催された。(2017年)
中学1年生から高校2年生までが参加する同校最大のイベントとして、
2日間の来場者は生徒の家族、卒業生、受験を考えている小学生や中学生と保護者、近隣住民など毎年3000人を超えるという。
邂逅とは偶然のめぐりあいを意味する。
冲永寛子校長は、「IT化が進み、人工知能の発展による変化の激しい時代においてこそ、
普遍的なもの、人間にしかできないものが一層大切にされるべきです。
そのひとつが人と人が出会うことによる感動、出会いによって新しく始まる未来や可能性」だと語り、
邂逅祭を通して生徒一人ひとりに、人と出会い打ち解ける大切さと邂逅の感動を刻んでほしいと期待を寄せている。
今年の邂逅祭のテーマは『Fantasy』。
テーマの副題は、「わたしたちの想像力で無限の空間を創り上げよう。
その空想の世界を現実に。過去の歴史に新しい未来を」だ。
高校生徒会長のKくんはプログラムの中で、
「文化祭はわたしたちの『Fantasy』そのものです。
学校全体が異空間となり、生徒一人ひとりが新たな面を表現する場面に溢れています」と言葉を寄せていた。
邂逅祭は
生徒たちが運営・企画・出店のすべてに関わって、
勉強とは別に学校の中で自分たちの挑戦や想いを表現したり、出現させたりする場。
まさに“生徒の、生徒による、生徒のためのお祭り”なのである。
邂逅祭を通して生徒は大人へと成長する
“生徒の、生徒による一大イベント”をまず感じたのが、実行委員会の存在だ。
文化祭実行委員長を中心に4月に決定した実行委員会は、
前年度の委員会から運営上の課題や改善点を引き継ぎ、5月のミーティングから本格的な活動を開始する。
実行委員会が決定するのは、毎年4月だが、実行委員長などの執行部は、
すでに前年度の3学期には決まり、次期実行委員会の組織づくりなどで動きはじめている。
実行委員には多くの生徒が立候補するため、選にもれる生徒も少なくないのだという。
ところが、実行委員会に入らなかった生徒も、有志として実行委員をサポートしている。
今年度、実行委員長を務めたYくん(高2)は、中3・高1と実行委員会で活動して、
今年は委員長として委員会をまとめる要職を務めた。
「実行委員を通して、学年を越えた交流が生まれます。ときには卒業生が『自分たちの代はこうしたよ』と
アドバイスをしてくれることもあります。
毎年蓄積されていく知恵を生かして、邂逅祭はより良いものとなって進化しています。
当初、雨天による問題も起きましたが、執行部のメンバーの連携ですばやく対応でき、大きな問題にはなりませんでした。
今回の経験は次の代に伝えられていくので、来年度以降は雨天でも万全な体制での開催ができると自信を持っています」
Yくんが実行委員長としての心がけていたことは、
「みんなに平等であること。優先順位はありますが、それが不平等とならないように、感じることがないようにと心がけました」
彼の将来の夢を聞くと、
「僕は裏方が好きなんです。だから、将来も市役所職員や警察官など、公務員になって市民を手助けしていきたいと思っています」
自分を生かす道=使命を見つけ出したYくん。そこには邂逅祭を通して得たものも少なくないように感じる。
彼のように邂逅祭を通して成長していく生徒の姿に先生たちも心を動かされることが多い。
邂逅祭を担当する神田先生は言う。
「授業などでは見せない生徒の一面を見ることも多いです。
お客様を楽しませるために何をするか、お客様にどのように接するかなどは身近で実践的な社会体験です。
まずは発想があって、それをゼロからカタチにする。
その過程は自分たちの知恵をしぼり、知っていることを総動員して組み立てる作業です。
まさに邂逅祭は実践の場です。
邂逅祭に関するさまざまな出来事を通して、彼らは大人へと成長していきます」
難易度の高い企画を先生の協力で実現
邂逅祭での生徒たちの八面六臂の活躍は、目を見張るものがある。
中3以降は食べ物の出店、劇やお化け屋敷、アトラクションなど自分たちの教室を使ったクラス企画に加えて、
所属する部での出店や企画展示、パフォーマンス。また、有志によるバンド演奏やダンスなどもあり、
1人3役以上をこなして活躍する生徒も多い。
実行委員会でステージ上のパフォーマンスを統括する有志班を担当したEさん(高2)は、
多忙極める出演者のタイムテーブルづくりに苦労したという。
「有志で参加する人たち、すべての活動を考慮してタイムテーブルを組むため、5回以上訂正しました」
邂逅祭の前日・前々日の2日間は、授業はなく文化祭の準備期間となっている。
準備の様子を見に行くと、まず、目に飛び込んできたのが、高校1年5組の『15(いちご)のティータイム』
これは、遊園地にあるコーヒーカップを木工でつくったアトラクションだ。
回転する土台を鉄パイプや継ぎ金具で組み、その上に2人乗りの木製のカップを4台乗せた乗り物は、
人力で動かすものの土台もカップも360度回転するもので、その再現力に驚かされた。
企画責任者のOくんによれば、
「2人乗りのカップは146㎏まで耐えられます。複雑な構造計算は、物理の先生にお手伝いいただきました。
難易度の高い企画が実現できたのは、生徒と先生の距離がとても近く、
先生も気軽に相談に乗ってくださる、この学校だからこそと思います」
Oくんは夏休み中、ほぼ毎日、アトラクションの準備のために登校していたそうだ。
彼も含めたクラス全員の本気が結実した、ユニークな企画として目を引くものだった。
描くだけでは収まらない見せ場をつくる
邂逅祭当日、校門を入るとまず目に飛び込んでくるのが、右の壁面にずらっと飾られた大型の壁画だ。
中には10メートルに及ぶ巨大なものもある。そこにはボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』や
点描画の巨匠スーラの『グランド・ジャット島の日曜の午後』など、世界の名画の摸写が丁寧に描かれ、
小高い丘の上にある校舎に向かう来場者の目を楽しませ、気分を上げる楽しい仕掛けとなっている。
今年の作品は、大きな波に飲み込まれそうな富士山が印象的な葛飾北斎の傑作、
『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を縦4m×横6mに拡大して描いたものだ。
大きな布に描くので、実物と同じ比率に描くこと、大量に使う同じ色の絵の具をつくることに苦労したという。
部長のSさんは「帝京大学中高の美術部は、見せ場が多くやりがいがあります」と話す。
邂逅祭では、壁画のほかに自作の油絵作品の展示とファッションショーも行っている。
パフォーマンスとしてステージで行うファッションショーの今年のテーマは『世界』。
世界各国のイメージや民族衣装から、制作者自身が自由に発想し表現した服は、
絵画的だったり、国旗やその国を象徴する意匠を用いたものだったりと、
ショーとして楽しめるユニークで美しく楽しい作品ばかりだった。
邂逅祭で新たな夢を見いだす
高校2年1組は、ディズニー映画を舞台化したコメディミュージカル『アラジン』に挑戦した。
企画責任者であり、監督・演出を務めたHくんは、
「ミュージカルなので、歌を武器にしようと早い段階から取り組みました。
夏休み中、1日8時間の練習日を12日間設けました。
最後の文化祭なので集大成にしよう、いいものをつくろうというクラスの熱意が今までとは違いました。
舞台装置も最終稽古で大幅に変更する必要が出たりして、妥協すべき点を受け入れることも学びました。
ゴールの見えないところから一つのカタチにすること、より良い形になるように高めていくことは、
成功しても失敗しても、大人になって良い想い出になると思います。
本番では失敗しても笑ってくれるお客さんたちに助けられました」
物語の冒頭、主要人物たちで歌われる曲『アラビアン・ナイト』は、
歌を武器にしようと重ねた練習の成果もあって、
これから始まる物語に観客を引き込む魅力あふれたナンバーになっていた。
この劇で主人公を演じたMくんは、
「プロを目指していたサッカーをあきらめたときに、今回の『アラジン』に出会いました。
これをきっかけに演じることの楽しさを知ったので、大学では演劇をやりたいと思っています」という。
挫折を経て、文化祭での体験から新たな夢を見つけた彼の挑戦に心からエールを送りたい。
人気の秘密は部に伝わる独自のレシピ
邂逅祭では食べ物の出店が22店と充実している。
中3~高2のクラス出店に加えて、部活や保護者による後援会の出店もある。
剣道部の『たいやきやいた』は、屋台で使う本格的な金型のたい焼き器を借りて、
皮の原料の配合もオリジナルのレシピを、代々、部内で伝えているというこだわりの一品だ。
企画責任者のMさん(高2)は、「焼き器は文化祭当日の2日間だけしか借りていません。
焼く練習などはできないので、ぶっつけ本番。失敗は想定内です。
部員はクラスの企画や出店も兼ねているので、6名のメンバーでシフトを組むのも大変です。
時間に余裕のあるメンバーが長時間、焼きを担当してくれています。
2日間でみんな焼き方もどんどんうまくなっています。中には独自の焼き方を生み出した子もいます」
ふわっとした歯ごたえで甘みもほどよい 皮も美味しいたい焼きを毎年楽しみにしているファンもいるようで、
焼き上がりを待つ行列が絶えることはなかった。
“最後の文化祭”が背中を押した
クラスや部の企画以外に邂逅祭を盛り上げるのが、有志によるバンドやダンスのパフォーマンスだ。
高2のダンスユニットA(エース)は、
ダンス経験者の女子2名とダンス初心者の男子1名で結成されたグループ。
今年は、最後の文化祭だから後悔したくないと参加することを決めました。
テーマは『見る人を本気で楽しませるカッコいいダンス』です。
ジャニーズメドレーなど親しみやすい曲も交えて、
自分も観客も盛り上がれる楽しいステージづくりを目標にしました」
幼い頃からダンスを習っていたKさんは、有志企画には興味があったが出演を迷っていた。
その背中を押してくれたのが担任の先生だった。
「ダンスをやっていない人にも楽しんでもらえるステージを、自分たちも楽しみながら踊りたいと思います」
唯一の男性でダンス初心者のUくんは、
「最初は忙しいから断ろうと思いましたが、
ダンスも好きだし、最後の文化祭だから何かに一生懸命取り組みたいと思い、やることにしました」
人を楽しませることが好きなUくんは、
「見に来る人を引きつけて盛り上げたいし、かっこいいダンスではビシッと決めるなど、
その場にいる全員に楽しんでもらいたい」と抱負を語った。
3人とも有言実行。切れ味抜群のダンスでは自身も楽しみ、観客も大いに楽しませ、盛り上げていた。
もちろん。Uくんは軽妙なMCでも観客をわかせていた。
生徒の想いは実を結び、受け継がれる
すべてを出し切った高2は邂逅祭後、大学進学という次なる目標に向かって動き出す。
高1以下は来年の邂逅祭に向けて、自己実現と、仲間と達成感を共有するための模索がはじまる。
その過程は先生との絆を深め、仲間と協力して進んでいくものになるだろう。
表舞台に立ち、あるいは裏方として支えながら走り切った数か月は
『もっといいものを、楽しいものを』と努力したからこそ手にすることができた
“想い出”“自信”“次の目標”として、確実に生徒一人ひとりの胸に刻まれたのだろうと、あふれる笑顔を見て感じた。
2017年度の中学始業式で新入生代表は、
「わたしがこの学校にどうしても入りたいと思った理由は邂逅祭です。
クラスが一つになってとても楽しそうにお店をやっている先輩方を見て、
わたしもこんな仲間をつくって充実した学校生活を送りたいと思ったからです」と挨拶した。
生徒たちの想いは、確実に次の世代へ伝わり、受け継がれていく。