特集2 音はこうして消える!防音の仕組み大解剖

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音はこうして消える!防音の仕組み大解剖

協力:株式会社永田音響設計



ご近所や自分自身を悩ませる不必要な音を撃退するためには、まず、敵を知ることから……。日本の有名ホールの多くを手掛ける永田音響設計さんに「音が消える」現象について教えていただきました。


音の3要素
 音は何らかの音源が原因で空気や固体が振動し、その振動が鼓膜を震わせることによって人に聞こえます。この振動によって生じる疎密波*を音波と呼びます。

* 密度の疎なところと密なところとが次々と出来て進行方向に伝わっていく波。こうして音圧に差ができることで、音が生じるため、その差が大きいほど音が大きくなる。
 
まずは、音の3要素を知りましょう。

強弱[デシベル:dB]→ 音波の振幅。この振幅が大きいほど、音は大きく聞こえる
周波数[ヘルツ:Hz] →1秒間に音波が振幅する回数で、音の高低を決定する。回数が多いと高い音域、少ないと低い音域の音が出る
音色→音波の形。この違いが音色を決定する。ピアノの音、ヴァイオリンの音、ダミ声など、音色によってこの波の形が異なる

 ここで注意したいのは、しばしば音の大小を表現するときに用いられる「デシベル」だけでは、人の感じる「うるささ」を測ることはできない点です。人間の耳には、聞こえやすい音域と聞こえにくい音域があり、同じ「デシベル」数の音でも、音域によってはうるさく感じることがあります。そのため、防音策を決定する際には、「どの音域で、何デシベル」という確認をしないと、思っているほどの効果が現れないという自体に陥ることがあります。ピアノの音は27.5Hz から4186.009Hz までの音域が出るといいますが、防音施工業者の多くは、測定時に人間の耳が聞き取りやすい500Hz の音のデシベル数の大小で話を進めます。
 ところでなぜ500Hz かというと、これは慣例なのです。ホールの残響も、実際には低音から高音までの残響時間の数値があるのですが、代表して500Hz の数字で表します。そのため、実際にはいろいろな周波数での効果を確認することが必要です。

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音の透過
 部屋の中でピアノを弾くと、音波は空気を伝わって壁に届きます。このとき、音波の一部は跳ね返り、一部は壁を通る間で分散し、残りが抜けて出ていく(=透過する)ことになります。音波の振動エネルギーの一部が、壁を通過する途中で別のエネルギー(熱エネルギーなど)になることで、音が弱まるのです。
 ただし、壁の厚さを2倍にしたところで、防音効果が2倍になるわけではありません。壁の厚さが変わることで、防音効果を発揮する音域に変化が生じるからです。たとえば、コンクリート15cm の厚さの壁は、500Hz で50dB くらいの遮音
性能がありますが、厚さを2倍にしても遮音性能は55dB くらいにしか上がりません。

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遮音

 コンクリートやガラスなどは、高い周波数の音ほど遮る効果が高く、低い周波数の音では効果があまり上がりません。また、薄い板やガラスでは、その厚さによって特定の高い周波数で遮音性能が悪くなります。これをコインシデンス効果と言います。したがって、ガラスを組み合わせて高い遮音性能を実現したい場合には、異なる厚さのガラスを組み合わせて使用することが有効す。複層ガラスや二重壁を選ぶ際は、共鳴して音が抜けるのを防ぐため、異なった素材や厚さを組み合わせた方が良いでしょう。しっかりと確認しないと、せっかくの二重ガラスなのに遮音効果が出ないこともあるのです。
 低音の遮音にはとても重く厚い壁が必要で、完全に遮るのはとても難しいことです。ただし、上手くできているもので、人間の耳には低音域は聞きとりづらく、完全に遮音できなくても気になりにくいという面もあります。


遮音と防振

 音には、空気を伝わっていく「空気伝搬音」と、固体(建物の壁や床)を伝わっていく「固体伝搬音」の2種類があります。ピアノのように床に設置するような楽器の場合には、空気伝搬音と固体伝搬音の両方に対処することが必要です。壁や床の空気伝搬音に対する遮音性能を良くしても、脚から伝わる固体伝搬音の影響で、それほど効果は見られません。ピアノを設置する部屋を浮き床にしたり、ピアノの脚にインシュレーターのような装置を設置して、演奏による振動を床に伝えないようにすることが重要です。


室形状(しつけいじょう)
 壁で反射した音は、単純な形の部屋の中では規則正しく反射し続けてしまい、過剰で不快な響きを生んでしまいます。そこで、小さな練習室などでは壁面をギザギザにしたり、立方体や直方体を避けて一辺を斜めに設計したりします。例えば、4畳、8畳の畳の部屋は床の形が正方形になりがちですが、快適な音響の意味ではできるだけ避けたほうが良いです。


吸音
 また、しっかり区別して欲しいのが「遮音」と「吸音」の違いです。音源の音を遮るためには、まず遮音の方法をしっかり決めることが重要です。しかし、音を出す部屋の吸音性能が大きい(=響かない)と、音源室内の音が小さくなるため、隣の部屋に透過する音は小さくなります。また、音を透過してくる部屋の吸音も大きい方が聞こえる音は小さくなります。
 身近にあるカーテンや毛布などで防音策をすることもあると思いますが、カーペットやカーテン、毛布などは、波長の短い、高い周波数の音しか吸収しません。そのため、低音も吸収させたいときは、カーテンならば2倍幅程度の広いヒダを取るなどの工夫が必要です。また、部屋の隅はより音圧が高いので、ここに吸音できるものを置くと、効率良く音を吸ってくれます。
 遮音を効果的におこなうためには吸音も重要ですが、やはりまずは遮音をしっかりおこなうことが肝心です。


〔まとめ〕
 音が「消える」メカニズムは分かりましたか? サロンコンサートをおこなうような小さなスペースでは、こうした工夫がより良い音響の実現に大きな影響を与えます。音楽空間のリフォーム等を考えている方は、ちょっとした工夫でさらに良い結果に結びつくこともあるので、音響専門家に相談するのが良いでしょう。

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