清塚信也の音楽と愛についての考察

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清塚信也の
音楽と愛についての考察(品切中)

清塚 信也 著
 

 
■四六判/240ページ 
■定価:本体1,500円+税
■ISBN 978-4-907121-54-9

どうせ口から出まかせ書いてるんだろうな、と思って読んだら、残念ながら妙に納得することが多く、不覚にも引き込まれちゃいました。
                            高嶋ちさ子(ヴァイオリニスト)


 

もくじ

まえがき

第1章 清塚信也の音楽と愛についての考察
第2章 清塚信也の“音楽家のジレンマ”
第3章 ショパンをめぐる冒険
第4章 ピアニスト清塚信也のクラシック・ラヴ・ストーリーズ
第5章 いろいろなエッセイ

あとがき

まえがき

クラシックピアニストと呼ばれるのが嫌いだ。
クラシック以外は弾くなと言われているようだからである。
しかし、僕の中はクラシックのすばらしさでいっぱいだ。
幼い頃からクラシックを勉強してきたからこそ、
誰よりもそのすばらしさを理解しているつもりである。
だから、クラシックを伝えたい。
でも、クラシックピアニストとは呼ばれたくない。
このジレンマを抱え、日々活動してきたのだが、
ここへ来て、映画やドラマの音楽を書くようになり、
ライブハウスでクラシックではないライブをするようになり、
あらためてクラシックのすばらしさをまた再確認することになった。
どの分野が優れているかという話ではない。
外国語を勉強すると、母国語までより深く理解できるといった現象に近いかもしれない。
なので、ひとまずここらで、自分の中にある
クラシックに関わる小話のようなものを一度まとめてみようと思った。
この本を通じて、より多くの方と、
クラシックのすばらしさや美しさを共有できたらと思います。

                            清塚信也 第一章 清塚信也の音楽と愛についての考察

   ショパン「もう恋なんてしない!?」

「なんで先生が全部正しいんだよ」と、ピアノを始めた5歳の頃からずっと思っていた。僕はその後も、ずっとそう思いながら生きてきた。
 だってそうでしょ? 明らかに僕より大きな手を持っている先生が、僕の手の特徴を理解した上でのテクニックを教えられるはずがないじゃないか。そういうテクニックは教わるんじゃなくて、自分で編み出すものだ。
 “勤勉”という特徴は日本人の長所だと思うけど、それは時に“鵜呑み”となって学習者の邪魔と化す。先生や作曲家を神様かのように崇め立てるのに僕は反対だ。ショパンだってひとりの男だし、ただの人間だったわけだし。
 ショパンは26歳のとき、婚約までしたマリアと破局している。26歳といえば、サンドと出会った歳でもある。「あれでも女なのか」と言い放ったショパンは、初めはサンドのことを軽蔑していた。「僕のマリアちゃんに比べれば、あのサンドとかいう女、マジで品がねぇ」って思ったんだろうね。
 でも、結核が原因でマリアから婚約を解消された直後、27歳でショパンはサンドと付き合いはじめる。
「えぇ! おいおい、ちょっと待ってよ、ショパン変わり過ぎだろ」ってツッコミ入れたくなりますよね? どうですか?「最初から気になってたからこそ軽蔑した」なんて美化した意見もあるんだろうけど、僕の見解は違います。
 忘れちゃならないのは、ショパンは、この頃かなり貧乏だったということ。ウィーンでは失敗、祖国への奨学金申請も断られていたショパンは、かなりの金欠に陥っていた。リストほどたくましくコンサートホールのリサイタルができないショパンは、何とかパリにいる貴族たちのコミュニティーに入って、レッスンなりサロンコンサートなりの仕事を探す必要があった……。
 そこでジョルジュ・サンドですよ。彼女は初めからショパンに“ほの字”だったし、ショパンはそれを知っていた(ラブレターもらってたし)。そして、サンドはパリの貴族たちにも顔が効く。
 僕はね、ショパンはそれを利用したんだと見てます。別に好きじゃなくても、そういう『利用価値』みたいなもので恋心と錯覚する時期って男の人生に一度はあるもんです。ショパンはマリアにフラれるまで「ポーランドに帰ろうかな……」と迷っていたようだけど、たぶんフラれて腹を括ったんでしょうね。
 というか、吹っ切れたのかも。
 それくらい大きな失恋だったんだな……。
「もう恋なんてしない! 今日から仕事の鬼になってやる!」って学生の頃なんかよくある話じゃないですか。桐朋学園の学生時代なんか、そんなんばっっっっっかり見てきましたよ、僕。ショパンはその後、みごとに貴族社会への参入を果たし、結構な額のレッスン料やギャラなどで割と裕福に生きていくことができたようです。
 これもサンドのおかげだね。
 取っ掛かりの理由はちょっといただけないかもしれないけど、結局それが本物の愛に変わっていったんだから、良いと思いませんか? そういうのもアリでしょう。
「のだめカンタービレで初めてクラシック知った……とかあり得ない」とか言うやつがあり得ない……と僕は言いたい。
 いいじゃない! 出会いのきっかけなんてさ!
KAWAI
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