横山幸雄ピアノQ&A 136 から はじめに

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 子どもの頃から、僕の周りにはいつもすばらしい音楽があった。数多くのレコードに囲まれて、お気に入りのものを朝起きてまず聴き、食事中にも聴き、また夜寝るときにも聴く……という毎日だった、らしい。

 もの心ついてからは、そんな名曲名演を聴くたびにまずひとしきり感動したあと、「なぜ、その曲が、その演奏がすばらしいと感じるのか」という疑問が僕の心の中にわいてくるようになった。すばらしいと感じるのは、それなりの理由があるからではないか、と。

 幼い頃の感動体験が憧れとなり、それが後の才能の開花へと導かれることは多いだろうが、僕はそんな夢のような話より、現実的な「理由」に興味をひかれた。「音楽は芸術なのだから」とか、「天才はすごい」とか言って終わりにしてしまうことは簡単だが、「芸術」だろうが「天才」だろうが、常人には計り知れない最後の最後の1パーセントを除けば、理論づけできるのではないかと思う。

 スポーツの世界では科学的な分析と合理的なトレーニングの結果、現在でも記録が伸びている。しかし、だからといって人間自体の能力が高まったわけではないだろう。音楽にしても、技術的な指の訓練や体の使い方、音楽的なとらえ方等にセオリーがあってもおかしくないはずではないか。もちろん音楽によって人に感動を与えられるような人には、理論だけでなく類い稀なセンスと個性、そして強い精神力が必要だとは思うが。多くのそうでない人にとっても、ピアノの練習がなるべく合理的で楽しい物であってなにも悪いことはないはずだ。

 

 この本は月刊ショパン誌上で連載した読者からの質問を中心に加筆しまとめたもの。元の連載したものより相当多く加筆しなければならなかったのは、本としての体裁を整えるために、ある質問に対してさらに別の角度からの質問の追加が必要だと感じたからだ。また、クラシック音楽やピアニストのことを堅苦しく特殊なものと感じているかもしれない多くの人たちに対しても、音楽のこと、ピアニストのことを少しでもわかってもらえる本にしたかった。

 したがって、ある部分については、専門的に見た場合、説明不足のこともあるかもしれないし、だれにでもわかりやすくするために、あまり深くつっこんでいない部分もある。本来このような内容というのは、一対一で向かい合いながらその人に対して語りかけるのが筋というもので、そうすればその人にとってわからないところや難しい部分はさらに説明をすることができる。音楽を理論や言葉に置きかえられるといっても、だれに対しても、というのはなかなか至難のわざだ。

 また僕にとっては普段から自然にやっていることでも、こうしてひとつひとつ質疑応答の形にして分析して整理することによって、理論的にもより強固なものになり、自分自身の勉強にもなった。

 読者によって、特に興味をひかれる質問があれば、その部分から読みはじめてもらってもいいし、ややこしすぎる項目は飛ばしてもらってもかまわない。

 いずれにしても、少しでも音楽を愛する人が増え、また楽しくピアノを勉強できる人が増えてくれたらよいのだが……。

 

 「横山幸雄ピアノQ&A136 上 はじめに」より

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